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第11話 フィーリア嬢の笑顔


 食堂にはフィーリアが一人ポツンと座っている。無駄に広い食堂に無駄にでかい長机。彼女はそんな豪華な食堂にも負けない華やかさだ。今日は水色の可愛らしいフリルワンピースを着ていてよく似合っている。


「カイノ、今日は急にごめんなさいね」


 俺に気がついた彼女はパンケーキを食べる手を止めて、こちらを向いた。やっぱり怖いくらいに美人だ。綺麗で澄んだ声、俺をまっすぐに見つめる瞳は綺麗なサファイアのよう。


「お嬢様、とんでもございません。また読んでいただけて嬉しいです」

「私もあえて嬉しいわ」


 言葉に詰まりながら、彼女はそう言って微笑んだ。


——私も会えて嬉しい


 スイーツが食べたかったとかそういう感想の前にお世辞でも「俺と会えて嬉しい」と言ってもらえるだなんて……なんて俺は幸せものなんだろう。


「これ、王国第一洋菓子店のパンケーキを勉強してくれたってクリスティンに聞いたの」

「はい。お嬢様がお好きだと伺って」

「ありがとう。これはね、お父様とお姉様と御褒美で食べていたパンケーキにそっくりなの。お父様はすごく倹約家で……頑張った時の贅沢。だからね、いい思い出がたくさんあるのよ」

「そうだったんですか。お口に合ったようでよかったです」

「えぇ。今はお店には行かれないから……食べられて嬉しい」


 彼女は弱々しく言った。どうしてお店に行けないのか。ルギャルー公爵家の名前で予約をすれば明日にでもすぐに席を空けることはできるだろう。なのに、どうして……。

 クリスティンがフィーリアの後ろで小さく首を横に振った。「聞くな」という合図だろう。やはり、フィーリアは何かの理由があってこの屋敷に引きこもっている。


 フィーリアは再びフォークとナイフを持つもパンケーキを切って、ホイップクリームを乗せてパクッと口に入れた。小さな口、頬がぷっくりと膨れてもぐもぐとハムスターみたいに動く。あまりの可愛さに俺は見惚れてしまった。お口をパンケーキでいっぱいにして、彼女はこちらをみて「おいひぃ」と微笑んだ。

 

——可愛いっ……


 胸を撃ち抜かれたようだ。

 彼女は俺の気持ちもよそにパクパクとパンケーキを食べすすめていく。2段重ねのパンケーキが綺麗に無くなっていく。細くて華奢な体のどこに入ってしまうのかという神秘に触れつつ、自分の作ったスイーツが美味しく食べてもらえる瞬間を見届けた。


「美味しかった。カイノ、パンケーキを作ってくれてありがとう」


 恥ずかしそうに、でも満面の笑み。

 人に感謝してもらうこと、こんなにも嬉しんだ。フィーリアが可愛いとか好みとか好きとかそういうのは別として、人の笑顔ってこんなにも力があるんだ。ついこの前まで人生に絶望していた俺だけれど、こんな笑顔を見てしまったら……パティシエとして一流になってみんなを笑顔にしたいだなんていう夢を持ってしまいそうだ。


「嬉しいお言葉ありがとうございます。お嬢様」

「カイノ、お願いがあるの」

「なんでもお伺いします」

「私ね……甘いものがすごく好きで、そのまたきてほしいの」

「もちろんです。俺は専属パティシエですのでいつでも駆けつけてみせます」

「いつでも、駆けつけて……」

「すみません。これは騎士を目指していた頃の癖で、あ〜その、変な意味はありません。いつでもお呼び出しくださいという意味で」


「ふふっ」


 フィーリアは慌てる俺を見て含み笑いを見せた。それはとてもとても可愛らしい笑顔。俺の心はついに彼女に陥落してしまっていた。


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