98 金の亡者 ランド・アルマーク編9 あなたさえ生きていれば
「ア、リエル……、僕は……」
ランドの掠れた声に、アリエルは一瞬、救われたような表情をして顔を上げた。しかし、その淡い期待はすぐに打ち砕かれる。
アリエルの流した純愛の涙、そして彼女の温もりは、ランドの肉体の崩壊をかろうじて食い止めた。だがそれは、彼を人間に戻したわけでも、完全な神にしたわけでもない。
半分は人間の血が通い、もう半分はドス黒い錬金術の粘液が脈打つー「半人間・半不死」の異形への固定だった。
「触るな!」
ランドの瞳から、人間らしい光が完全に消え失せた。彼は残された歪な力を振り絞り、自分を抱きしめていたアリエルを無慈悲に突き放した。地面に転がるアリエルを、ランドは凍りつくような冷徹な眼差しで見下ろす。
「勘違いするな、アリエル。僕は後悔などしていない。……ただ、僕の計算が狂っただけだ」
「ランド、様……?」
「お前のそのくだらない涙のせいで、ぼくは不完全なバケモノになった。だが、これで終わりではない。僕は必ず、この肉体を完全なものにしてみせる。父親の書庫のすべての知識を使ってな」
ランドはよろめきながらも立ち上がった。その肉体の半分は黒く変色し、衣服の隙間から不気味な触糸が蠢いている。
「そこを動くな! ランド!!」
鋼鉄が剣を構え直して肉薄するが、ランドの方が一瞬早かった。ランドが地面に残った錬金陣を強く踏みつけると、物置小屋の残骸から凄まじい砂煙と煙幕が爆発的に巻き上がった。
「くっ……!?」
鋼鉄が腕で顔を覆い、激しく視界を遮られる。数秒後、風が砂煙を吹き飛ばしたときには、そこにはもうランドの姿はなかった。ただ、夜の森へと続く点々とした黒い血痕だけが、草むらに残されているだけだった。
「ランド様ぁーーーーっ!!」
静まり返った夜の庭に、アリエルの悲痛な叫び声だけが虚しく響き渡る。
傷を癒しながら闇に潜み、さらなる禁忌の知識を求めるであろう「不死生命」ランド。
裏切られてもなお彼を忘れることができない少女、アリエル。
そして、かつての教え子を討つ事を決意した剣士、鋼鉄。
狂気の夜は明け、三人の歪んだ運命の歯車が、いま静かに回り始めたー。
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