94 金の亡者 ランド・アルマーク編5 ボクを愛する者
閃光が収まったとき、作業台の上の黒猫は動かなくなっていた。実験は失敗ーーいや、そうではなかった。
ランドが恐る恐る手を伸ばすと、心臓も止まり、呼吸もしていないはずの猫の死体が、ピクリと不自然に四肢を痙攣させた。それは死んではいるが、決して腐ることも滅びることもない「肉体の永続」の、不完全な成功を意味していた。
「……なるほど。やはり、ただの獣の命では『楔』としては弱すぎるのか」
ランドは忌々しげに舌を打ち、再び『賢者の石と肉体の永続』のページを激しくめくった。不完全な成功は、彼の狂気的な執着をさらに燃え上がらせていた。
羊皮紙の最下部、血のように赤い文字で書きなぐられた一文が、彼の目に飛び込んでくる。
『ー警告。真なる不死の器を完成させるには、術者を心から慕い、愛する者の魂を「生の残滓」として捧げなければならない。その純粋な情愛のエネルギーこそが、魂を肉体に永久に縛り付ける究極の楔となる』
「ぼくを、愛する者……」
ランドは呟き、すぐに一人の少女の顔を思い浮かべた。この屋敷で働く、同い年のメイドーアリエルだ。
彼女がランドに向ける視線には、明らかな憧れと、隠しきれない情愛が混ざっていた。毎朝、彼が声をかけるだけで顔を赤らめ、彼のためならどんな無理な言いつけも笑顔でこなす、健気で純真な少女。
「ふ、ふふ……。あはははは!」
深夜の物置小屋にランドの抑えきれない笑い声が響き渡った。なんという幸運だろうか。必要な極上の素材は、最初からすぐ目の前に転がっていたのだ。
「光栄に思うといい、アリエル。お前のその恋心が、僕を神の領域へと導く最高のカギになるんだから」
翌朝。
ランドはいつもと変わらない、むしろいつもより少しだけ優しい笑みを浮かべて、朝食を運んできたアリエルに声をかけた。
「おはよう、アリエル。実は今夜、君にだけ見せたい特別な場所があるんだ。夜遅くに、物置小屋へ来てくれるかい?」
「えっ……私、ですか……?」
アリエルは一瞬驚いたように目を見張ったが、すぐに胸の高鳴りを隠すように頬を染め、嬉しそうに深く頭を下げた。
「はい、ランド様! 喜んでお伺いします!」
彼女の弾んだ声を聞きながら、ランドは影の中で、またあの不気味な笑みを深く刻んでいた。
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