93 金の亡者 ランド・アルマーク編4 錬金術
ランドは『賢者の石と肉体の永続』を机に広げ、貪るようにしてページをめくった。ランプの灯りに照らされた羊皮紙には、どす黒いインクで複雑な錬金術の陣と、おぞましい数式が並んでいる。
「……なるほど。人間の肉体は単なる器に過ぎない。魂を固定する『楔』さえあれば、腐敗も衰退も、死すらも克服できるというわけか」
本に記されていたのは、おとぎ話の「不老不死」などという生易しいものではなかった。それは、生物の肉体を一度完全に分解し、錬金術によって再構築することで「絶対に朽ちない肉体」を作り出す、神への反逆とも言える技術だった。そしてその核となるのが、莫大な生命エネルギーを凝縮した赤い結晶ー『賢者の石』である。
時計の針が午前三時を回る頃、ランドの目は完全に充血していたが、その脳はかつてないほど冴えわたっていた。
「必要な素材は……鉛、水銀、それから、新鮮な『生の残滓』か」
ランドは本を閉じると、迷わず隠し書庫を後にした。向かったのは屋敷の裏手にある古びた物置小屋だ。そこは彼が普段から個人的な「趣味」のために使っている場所だった。
錆びたカギを開けて中に入ると、微かに獣の匂いが鼻を突く。作業台の上には、今日の為に昼間のうちに捕らえておいた、一匹の大きな黒猫が小さな檻の中で怯えていた。ランドの姿を見た猫が、威嚇するように低く唸る。
「静かに。お前はこれから、偉大な一歩の礎になるんだ」
ランドの瞳には、一切の躊躇も同情もなかった。あるのは純粋な知的好奇心と、底知れない野心だけだ。
彼は作業台にチョークで本にあった通りの錬金陣を描き、その中心に檻を置いた。周囲に鉛の破片と、ガラス瓶に入った水銀を配置する。
「肉体の永続。その証明をここで見せてくれ」
ランドが呪文を唱えながら陣に手をかざすと、チョークの線が不気味な鈍い赤色に発光し始めた。檻の中の黒猫が激しく暴れ、次の瞬間、その鳴き声が肉肉しい、聞いたこともない悲鳴へと変わるー。
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