132 力の体現者 絶望のマリア編6 神魔の二重奏と終わりなき決戦
「これで、終わりだッ……!」
真紅の竜鱗に身を包んだシンディ・バーンズの咆哮が、崩壊しかけた戦場に響き渡る。
『クリムゾンスケール』の限界駆動。彼女の全身から溢れ出る紅蓮の魔力は、すでに周囲の大気をプラズマ化させ、空間そのものをドロドロと融解させ始めていた。
シンディはハイフリード・ギアを深く踏み込み、全魔力をその右脚へと不可逆的に収束させていく。
天を突くほどの巨大な紅蓮の火柱が彼女の脚を中心に立ち昇り、それはやがて、戦場全体を焼き尽くすほどの超巨大な光の刃へと形を変えた。
「往けぇぇぇッ! 『プロミネンス第2楽章――ラ・メンディサイシブ』ッ!!」
空間そのものを爆破しながら、シンディの身体が弾け飛ぶ。
放たれたのは、絶対的な決定打。光速を超えた一撃は、触れるものすべてを分子レベルで消滅させる、紅蓮の超新星となってマリアのすべてを呑み込もうと迫る。
だが、死の光に照らされたマリアの瞳は、一切の光を失ってはいなかった。
「あはは……あははははは! 凄い、凄い、凄い! これよ、これこそが私の求めていた『絶望』! そして、あなたを我が物にするという、最高の『切望』……っ!」
マリアの身体から、相反する二つの規格外の魔力が同時に噴き出した。
衣服を溶かした漆黒の闇――それは彼女が先ほど見せた、絶望の象徴である小悪魔の力。
しかし、その闇を引き裂くようにして、今度は目も眩むような純白の聖光が彼女の身体の右半分から爆発的に吹き荒れる。
「満たされよ闇、 祝福せよ光。さあ――交わりなさい」
マリアの叫びとともに、彼女の肉体が「禁忌」の領域へと変貌を遂げた。
それは、切望(天使)と絶望(悪魔)が奇跡的な均衡で同居した、神魔混載の異形。
彼女の右背からは、神聖なる白銀の天使の翼が美しく羽ばたき、右頭部には清廉な光の輪が浮かび上がる。しかし、左背からは禍々しい漆黒の悪魔の翼がはためき、左頭部には歪んだ闇の角がそびえ立つ。
右半分は慈愛に満ちた聖女、左半分はすべてを呪う魔王。
二つの絶対的な属性が螺旋を描きながら、彼女の持つ『覇槌ダイダロス』へと収束していく。ハンマーの右半分は白金に輝く聖槌へ、左半分は禍々しい棘に満ちた魔槌へと姿を変えていた。
「神魔二重奏――『ダイダロス・エンド』!」
マリアが、光と闇の混色に染まった巨槌を真っ直ぐに突き出す。
シンディの放った紅蓮の絶技『ラ・メンディサイシブ』と、マリアの『ダイダロス・エンド』が、空間のど真ん中で正面から激突した。
――ズウゥゥゥゥゥンッ!!
一瞬、世界の音が消えた。
あまりのエネルギーの質量に、光すらも歪み、二人の境界線を中心に空間がパキパキと硝子のようにひび割れていく。
真紅の炎がマリアの光と闇を焼き尽くそうと猛り狂えば、マリアの神魔の力がシンディの紅蓮を強引に圧し潰そうと膨張する。
「が、あああああッ!!」
シンディは歯を食いしばり、クリムゾンスケールの装甲をパチパチと弾けさせながらも、さらに右脚を押し込んだ。足の骨が軋み、筋肉が悲鳴を上げる。だが、ここで引けば魂ごと消し飛ばされる。
「うふふ、あはははは! 耐えるのねシンディ! もっと、もっと私にその命の輝きをぶつけてぇ!」
マリアもまた、半身の肌を紅蓮の炎に焼かれ、血を流しながらも恍惚の表情でハンマーを押し返す。天使の翼が千切れ飛び、悪魔の翼が炭化していく。それでも彼女の力は衰えるどころか、悦びによってさらに出力を増していく。
「お前みたいなイカれた女に……俺様が負けるわけねえだろぉぉぉッ!!」
「いいわ、私を殺す気で来なさい! あなたとなら、地獄の果てまで堕ちていけるわぁ!」
紅蓮、白銀、そして漆黒。
三つの色が渾然一体となって膨れ上がり、戦場となっていた建造物はおろか、周囲の地盤一帯が巨大な光の球体へと呑み込まれていく。
爆発的な閃光が視界のすべてを白く染め上げる中、シンディの紅い脚と、マリアの神魔の槌は、互いのすべてを破壊し尽くすために、さらに深く、激しく激突した。
世界の崩壊を思わせる轟音の中、二人の、本当の最後の闘いが幕を開けたのだった。
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