131 力の体現者 絶望のマリア編5 紅蓮の覚醒と絶望の目覚め
「ハァ、ハァ……ッ……!」
激痛が全身を苛んでいた。シンディ・バーンズは、黒煙を上げる『ハイフリード・ギア』を震わせ、壁を背に辛うじて上体を起こす。
自慢の脚は鉛のように重く、網膜に映る警告表示の赤が、彼女の敗北を無慈悲に告げていた。
「うふふ、その悔しさに歪んだ顔、最高にそそるわぁ♪ さあ、その綺麗なおみ足を、私のコレクションに加えてあげる」
マリアが『覇槌ダイダロス』を引きずりながら、ゆっくりと歩を進めてくる。
死の足音が近づく。だが、シンディの瞳の奥にある傲岸な光は、まだ一切消え失せてはいない。
「チッ……、誰が、諦めるかよ……! 俺様を、そこらの雑魚と一緒にするんじゃねえ……!」
シンディは、残されたすべての魔力を心臓の奥深くへと叩き込んだ。
ギアの安全リミッターを自らの意志で焼き切る。脳内を突き刺すのは、破壊と覚醒の衝動。深層に眠る禁忌のコードが、今、強制的に書き換えられた。
『――限定解除。真紅の鱗、起動』
「オォォォォォォッ!!」
シンディの咆哮とともに、彼女の全身から地獄の業火を思わせる、禍々しくも美しい紅蓮の魔力が爆発した。
その光は、瞬時に彼女の身体を包み込む「鎧」へと変貌していく。
ハイフリード・ギアから伸びた紅い結晶繊維が全身を覆い、まるで竜の鱗を思わせるソリッドな装甲を形成する。頭部には猛々しい角のごとき一対のブレードが走り、背後には紅い魔力の翼が奔流となって吹き荒れた。
――『クリムゾンスケール』。それは、ギアに秘められた真の覚醒能力。
「な、に……これ……?」
マリアの妖艶な笑みが、初めて凍りついた。
直前まで虫の息だったはずの少女から放たれる、次元の違う圧倒的なプレッシャー。大気がビリビリと鳴動し、立っているだけで押し潰されそうな重圧がマリアを襲う。
「待たせたな、変態女。……ここからは、俺様の時間だ」
ドンッ!!
音を置き去りにした。
シンディが床を蹴った瞬間、衝撃波で周囲の壁が消し飛ぶ。次の瞬間には、シンディの紅い脚がマリアの眼前に迫っていた。
「速――」
マリアが慌ててダイダロスを盾にしようとするが、それよりもシンディの蹴りの方が遥かに速い。
ドッゴォォォォォン!!
「があぁぁッ!?」
凄まじい爆音。マリアの身体は、まるで木の葉のように激しく吹き飛び、何枚もの壁を突き破って遥か後方へと叩きつけられた。信じられないことに、あれだけ強固だったダイダロスの表面に、シンディの足の形をした深い亀裂が刻まれている。
「カハッ、あ、圧倒的……じゃない、の……っ」
瓦礫の中から這い出たマリアの顔から、ついに余裕の笑みが完全に消え去った。
シンディの放つ紅いプレッシャーを前にして、彼女の心を満たしたのは、底なしの恐怖――そして、自らが踏みつけられるという完全なる『絶望』だった。
だが、マリアという女の狂気は、その絶望の淵でこそ真価を発揮する。
「あは、あはははは! 素晴らしいわシンディ! 絶望的よ、勝てるわけがないわ! だからこそ――」
マリアの身体から、どす黒い漆黒の魔力が噴き出した。
絶望が彼女の精神を蝕み、異形へと変えていく。彼女の背中から、蝙蝠のような小さな悪魔の翼がパサリと生え、頭部には可愛らしくも不気味な小悪魔の角がそびえ立つ。
身にまとっていた衣服は影のように融解し、彼女の輪郭そのものが、どこか幻想的で妖美な『小悪魔のシルエット』へと変貌を遂げた。
「さあ、壊し合いましょう? あなたのその紅い絶望で、私をめちゃくちゃに満たして頂戴……あははははは!」
真紅の鎧に身を包み、圧倒的な力を手にしたシンディ。
絶望の果てに狂気を覚醒させ、小悪魔の姿へと成り果てたマリア。
最高潮に達した二人の魔力が激突し、戦場は眩い光と闇の渦へと呑み込まれていく――。
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