130 力の体現者 切望のマリア編4 絶対の質量と届かぬ連撃
「ガッ……、ハァッ……!」
視界を埋め尽くす巨槌『AF覇槌ダイダロス』の風圧だけで、全身の皮膚が裂けそうなほどの衝撃がシンディ・バーンズを襲っていた。
自由自在に大きさを変える質量兵器。まともに喰らえば、自慢の脚どころか、骨も残らず圧殺される。
「チッ……! 舐めんじゃねえぞ、この化け物女ぁ!」
シンディは限界を超えてハイフリード・ギアに魔力を注ぎ込んだ。
脚部の装甲が過駆動の悲鳴を上げ、鋭い電気火花が散る。
「『チェイン・ディザスター』――発動ッ!!」
シンディの足元から、網の目のように細烈な魔力の光鎖が爆発的に広がった。
チェーンスキル――それはハイフリード・ギアが持つ、自身の移動軌跡を空間に固定し、それを足場として超高速の多次元連続蹴りを叩き込む決死の連撃術である。
ドオォォォン!!
マリアが振り下ろした巨槌が、シンディが直前までいた大地を粉砕し、クレーターを作り出す。だが、すでにシンディの姿はそこにはない。空間に張り巡らされた光の鎖を蹴り、彼女は真上、斜め後ろ、死角のすべてから、音速を超える速度で弾け飛んでいた。
「オラオラオラオラァッ!!」
空中を縦横無尽に駆け抜けるシンディは、マリアの全方位から無数の蹴りの雨を降らせた。一撃一撃が岩盤を穿つ破壊力。光の軌跡がマリアの身体を包み込む。
しかし、マリアの顔から余裕の笑みが消えることはなかった。
「あ~ら、すごい。まるで光の檻ねぇ。でも、ちょっと直線的かしら?」
マリアは巨大化したダイダロスを、まるで羽毛のように軽々と、しかし驚異的な精密さで振り回した。
キィン!ガキィン!と、空間を激しく震わせる金属音が連続して鳴り響く。
シンディの死角からの蹴りが、すべて的確にハンマーの腹で弾かれていく。信じられないことに、マリアはシンディの超高速移動の軌道を見切り、最小限の動きですべて防御していた。
「嘘だろ……!? この速度に、ついてきてやがる……!」
「ふふ、驚いた? 私、こう見えて目がいいのよ。それにね――」
マリアの瞳が妖しく光る。
その瞬間、巨大だったダイダロスが、今度は一瞬で片手剣ほどのサイズへと縮小した。
「なっ!?」
質量が急激に減少し、攻撃の軌道が完全に変わる。シンディが空間の鎖を蹴って突撃した瞬間、マリアの身体が驚異的な軽さでひらりと翻り、シンディの蹴りを紙一重でかわした。武器のサイズ変化を、攻撃の回避と自らの身軽さの切り替えに利用したのだ。
「――っ、しまっ……!」
空を切ったシンディの身体が、一瞬だけ硬直する。
その隙を、マリアが見逃すはずがなかった。
「捉えたわ、可愛い仔猫ちゃん♪」
至近距離。マリアが再びダイダロスを元の巨大な覇槌へと膨張させ、シンディの腹部へ向けて容赦なく真横から薙ぎ払った。
ドッゴォォォォン!!!
「が、はっ……あぁぁぁッ!?」
凄まじい衝撃音が響き渡り、シンディの身体が弾き飛ばされた。ハイフリード・ギアの防御障壁が一瞬で粉砕され、彼女の身体は地面を何度もバウンドしながら、激しく壁へと叩きつけられる。
「カハッ、ウ、嘘……だろ……」
壁に背を預けたまま、シンディは膝をついた。ギアからは黒い煙が上がり、自慢の脚は激痛でまともに立ち上がることすら拒絶している。全力を尽くしたチェーンスキルを完璧にいなされ、逆に致命的な一撃を喰らってしまった。
「うふふ、もう終わり? もっと私をゾクゾクさせてくれると思ったのに、残念だわぁ♡」
マリアは巨大なハンマーを肩に担ぎ、妖艶なステップを踏みながら、一歩、また一歩と、動けないシンディへと近づいてくる。その足音は、まるでシンディへの死のカウントダウンのようだった
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