表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

216/222

216話 悔いはない

「ぐっ……がは!?」


 ノアは立ち上がろうとして。

 しかし、失敗して地面に膝をついた。


 その際に吐血して地面を赤く染める。


 血の量はそこまで多くない。

 ただ、立ち上がることができない以上、勝敗は決しただろう。

 剣もまともに握ることができないようだし……


「俺の勝ちだな」


 ノアの前に立ち、静かに告げた。


 ノアは、自分が負けるなんて信じられない、という感じの驚きの表情を見せて。

 次いで、悔しそうにこちらを睨んでくる。


「そうだね……どうやら、僕は負けたようだ」

「わりとあっさり認めるんだな」

「僕は、そこまでバカではないさ。まあ……悔しいという気持ちはあるけどね」


 ノアは自由に動く手で地面をぐぐっとかいた。


「僕が負ける……そのようなことはありえないと思っていた。僕は常に奪う側であり、心の渇望を満たすことだけを考えていた。それなのに……」

「お前が剣士というのは、あまり認めたくないが……一応、言うとしたら敗北なんてものは誰にでもある」

「……」

「そこから学び、さらに上を目指す……それが普通だ。奪い続けることなんてできるわけがない。剣士だろうがなんだろうが、誰でも、いつかは敗北を知るものだ。それを知らなかったことこそがお前の敗因なのだろうな」

「……そうか」


 ノアは剣に夢中になって、人を斬ることに夢中になって。

 戦いを全てと捉えていた。


 ただ、それは間違いであると悟り……

 憑き物が落ちたような感じで、実に人間らしい表情で苦笑してみせた。


「今度は僕が負ける番だった、というわけだね?」

「そこまで運命じみたことを言うつもりはないが……まあ、その通りかもしれないな」

「はは……やはりキミはいいね。キミと戦えば心の飢えを満たすことができると思っていたけれど、そうでなくて、まさか別のところが満たされてしまうとは」


 ノアは本当に魔族なのだろうか?

 ついついそんなことを思ってしまうくらい、今の彼は人間じみていた。


 彼のこれまでの行い。

 そして、その胸に抱えていた想い。

 それを認めるわけにはいかないし、許すわけにもいかない。


 ただ……


 なんだかんだ、彼は剣にまっすぐだったのだろう。

 その想いが歪んだものだとしても、彼なりに向き合っていたのだろう。


 結局のところ、人それぞれなのだ。


 絶対的な正しさなんてないように。

 人それぞれに価値観があるように。

 剣に対する向き合い方も、やはり人それぞれなのだろう。


 けれど。


「どうして、そんなに寂しそうな顔をしているんだい?」

「いや……どうせなら、剣について意気投合して、色々なことを語り合いたいな、と思ってしまってな。そんな想像をしてみたら……少し寂しく思えた」

「つまらない仮定だね」

「つまらない……そうか、そうかもしれないな」


 ノアならそう思うだろう。

 彼はそういう価値観を持つ。


「でも、少しはわかったんじゃないか?」

「うん?」

「剣を通じて、全て……とは言わないが、ある程度は、相手のことを知れたような気がする」

「……そうかもしれないね」


 ノアが苦笑した。


「もう少し早くキミと出会っていたら、僕は……」


 ノアが微笑み。

 そっと、こちらに手を伸ばしてきた。


 しかし、その手は届くことはなくて。

 俺に触れる少し手前で灰となって消えた。


「……」


 最後の言葉はそれ以上にない。

 ノアは塵となり、風に運ばれていくようにして消えた。


 それが彼の最後。

 魔族でありながら剣士になろうとして。

 剣に対するこだわりを持ち、彼なりの想いで向き合おうとして。


 その果てに迎えた最後が、これ。


「ノア……お前は、満足だったのか? それとも……」


 その問いかけに、当然ではあるが答えなんて返ってこない。

 ただ、風が吹いていた。


◇ お知らせ ◇

新作はじめました。

『最強だけどバズりたくない陰キャダンジョン配信者と、放っておけないアイドル配信者』

二人の女の子のダンジョン配信ものです。

よかったら読んでみてください→https://ncode.syosetu.com/n7272lv/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇◆◇ 新作はじめました ◇◆◇
『最強だけどバズりたくない陰キャダンジョン配信者と、放っておけないアイドル配信者』

――人見知りで陰キャのダンジョン配信者の女の子。
でも実は、敵を瞬殺できる最強!

そんな主人公のところに陽キャのアイドル配信者が現れて・・・?

https://https://ncode.syosetu.com/n7272lv/

GAノベル様から書籍1~2巻、発売中です! コミカライズもマンガUP!にて連載中! こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
切ないね。(ToT)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ