213話 なぜ剣を選ぶのか?
悔しいがノアの剣は本物だ。
そこに心が宿っているかどうか。
剣士としての確かな矜持があるのか。
それは大いに疑問がある。
納得はしていないし、理解もできない。
そこは絶対だ。
ただ……
ノアが持つ技術だけは本物だ。
彼の剣はどこまで鋭く。
風を超えるほどに速い。
そして、予測不可能なほどに軌道がランダムで、そのような手があったのか、と思わず感心してしまうような攻撃を繰り出してくる。
今はどうにかこうにか食らいついていた。
一撃も食らうことなく、凌いでいた。
とはいえ、できていることはそれだけ。
それ以上のことはできておらず、そこに至るイメージもまったく思い浮かばない。
戦いの中で勝利をイメージできないというのはけっこうまずい。
すでに心が敗北を認め始めている、ということだ。
戦いは力だけではなくて、心の勝負でもある。
心が折れてしまったらそこで終わり。
一気に押し込まれてしまうだろう。
「くっ……!」
ノアが繰り出してきた剛剣をどうにかこうにか押し返して、防いだ。
本当は距離とりたいものの、ここで間を空けてはまずいと本能で感じて前に出た。
「おおおおぉおおおおっ!!!」
全力で剣を振り下ろした。
ノアは軽々を防いでみせるが、関係ない。
そのまま体当たりをするような勢いで押し込んでいく。
剣を振る。
薙ぎ払う。
突く。
ありとあらゆる攻撃を繰り出して。
ただ、その全てが届かない。
全力を出しているのに、どうしても届かせることができない。
……ふと、おじいちゃんとの稽古を思い出した。
なにをしても、どれだけ工夫をしても勝つことができない、山のように大きく圧倒的な存在感。
勝てるイメージがまったく思い浮かばない。
今、それと同じような状況だ。
俺は、どうしたらノアに勝つことができるのだろう……?
「やるね」
「くっ……キミは余裕そうだな」
「わりと際どいけど……でも、そうだね。うん、余裕はあるよ。だいたい、キミのことは理解できてきた。とても楽しい時間だったけれど……このあたりで終わりにしようか?」
ノアの闘志が膨れ上がる。
悔しいけれど、それに圧されてしまう。
俺は……どうしたらいい?
このままだと負けてしまうと感じるのだけど、しかし、ノアに勝つイメージを思い浮かべることができない。
なぜだ?
俺は、なにが足りていない?
ノアが持っていて、俺にないもの……力か? それとも技術か?
剣士として確かな矜持を持たないノアに負ける?
いや。
ただ、俺も剣士として正しいのだろうか?
なぜ剣士になりたいと思ったのか、そこに対する確かな答えを持っていないというのに。
剣を持つ意味は見つけても、剣士である意味は見つけられていないというのに。
「師匠、がんばって!」
「負けないでほしいでござるよ!」
「お兄ちゃんなら、そんなヤツ楽勝だから!」
アルティナ達が応援してくれる。
「……」
ソーンさんは言葉は紡がないものの、静かな視線で見守ってくれている。
そんな中、俺は……
俺は……?
「どうすれば……いい?」
答えは出ない。
見つからないまま迷う。
そして、ノアが地面を蹴るようにしつつ、力強く踏み込んできた。




