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212/223

212話 大きな背中はしかし遠く

「……やっぱり、師匠はすごいわ」


 憧れの人。

 誰よりも尊敬する剣の師。

 そして今、恐ろしい相手に戦いを挑んでいる。


 本来なら全員で挑むべきところなのだけど、しかし、ガイの望みで一対一の決闘となっている。


 ノアと戦うガイはたのもしく。

 ただ、不安にもなる。


 もしも負けてしまったら?

 そのまま命を落としてしまったら?


 そんな不安を覚えて……

 そして、そのことを考える自分が嫌になる。


 ガイなら絶対に勝てるはずだ。

 負けるなんて欠片もありえない。


 そう言いたいのに。

 そう信じたいのに。

 でも、どうしても心が揺れてしまう。


「はぁ……」

「どうしたのでありますか、アルティナ殿?」

「なにか悩み事? でも今は、お兄ちゃんの戦いを見ないと」


 アルティナの様子がおかしいことに気づいたノドカとユミナは、ガイとノアの戦いを見つつ、そっと問いかけてきた。


「んー……悩み事といえば悩み事ね」

「後で話を聞くでありますよ」

「うんうん、お姉さんに任せなさい」

「ユミナはお姉さんって感じはしないわね。ユミナちゃん、って感じ」

「なにそれ!?」

「あはは、ごめんね」


 笑って。

 それからため息をこぼす。


「……あたし、まだまだだなぁ」


 自分の力量不足をこれでもかと思い知る。


 ノアと激闘を繰り広げるガイの背中がとても大きく見えて。

 ただ、それだけじゃなくて、とても遠く見えた。


 もう一度、ため息。


 ただ、これで終わるつもりはない。

 力の差。

 心の強さの差に絶望して、もういいや、なんてことにはならない。


 必ず追いついてみせる。

 そして、いつか……

 いつか追い越してみせる。


 それが弟子の役目。

 よくやったな、と褒めてもらいたいから。

 これで安心だ、と笑顔を見せてほしいから。


「あたしは……今まで以上にがんばるわ。そして、まずは追いついてみせるんだから」


 アルティナは小さくつぶやいて、ぎゅっと拳を握るのだった。




――――――――――




 剣を振る。

 避けられる。


 もう一度、剣を振る。

 今度は防がれた。


 なら、次はどうする?

 追撃か? それとも様子を見るために距離をとるか?


 悩んでいるヒマはない。

 しっかりと考えているヒマもない。

 考えるのではなくて本能で動く。

 今までに積み重ねてきた経験で判断する。


 一歩、横に動いた。

 ほぼ同時に鋭い斬撃が飛んできて、それを剣の刃で受け流す。


 ノアの攻撃をどうにか凌いだところで反撃に出た。

 一歩、強く踏み込みつつ、剣を横に薙ぐ。

 目的は首。

 いくら魔族であれ、頭部を切断されて生きていることはできない。


「甘いね」


 俺がそうしたようにノアも攻撃を防いだ。

 わりと簡単に。


 ……まいったな。


 今のやりとりで。

 そしれ、今までの攻防で。

 俺はなんとなくではあるものの思う。


 ……このままでは勝てないな、と。



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