212話 大きな背中はしかし遠く
「……やっぱり、師匠はすごいわ」
憧れの人。
誰よりも尊敬する剣の師。
そして今、恐ろしい相手に戦いを挑んでいる。
本来なら全員で挑むべきところなのだけど、しかし、ガイの望みで一対一の決闘となっている。
ノアと戦うガイはたのもしく。
ただ、不安にもなる。
もしも負けてしまったら?
そのまま命を落としてしまったら?
そんな不安を覚えて……
そして、そのことを考える自分が嫌になる。
ガイなら絶対に勝てるはずだ。
負けるなんて欠片もありえない。
そう言いたいのに。
そう信じたいのに。
でも、どうしても心が揺れてしまう。
「はぁ……」
「どうしたのでありますか、アルティナ殿?」
「なにか悩み事? でも今は、お兄ちゃんの戦いを見ないと」
アルティナの様子がおかしいことに気づいたノドカとユミナは、ガイとノアの戦いを見つつ、そっと問いかけてきた。
「んー……悩み事といえば悩み事ね」
「後で話を聞くでありますよ」
「うんうん、お姉さんに任せなさい」
「ユミナはお姉さんって感じはしないわね。ユミナちゃん、って感じ」
「なにそれ!?」
「あはは、ごめんね」
笑って。
それからため息をこぼす。
「……あたし、まだまだだなぁ」
自分の力量不足をこれでもかと思い知る。
ノアと激闘を繰り広げるガイの背中がとても大きく見えて。
ただ、それだけじゃなくて、とても遠く見えた。
もう一度、ため息。
ただ、これで終わるつもりはない。
力の差。
心の強さの差に絶望して、もういいや、なんてことにはならない。
必ず追いついてみせる。
そして、いつか……
いつか追い越してみせる。
それが弟子の役目。
よくやったな、と褒めてもらいたいから。
これで安心だ、と笑顔を見せてほしいから。
「あたしは……今まで以上にがんばるわ。そして、まずは追いついてみせるんだから」
アルティナは小さくつぶやいて、ぎゅっと拳を握るのだった。
――――――――――
剣を振る。
避けられる。
もう一度、剣を振る。
今度は防がれた。
なら、次はどうする?
追撃か? それとも様子を見るために距離をとるか?
悩んでいるヒマはない。
しっかりと考えているヒマもない。
考えるのではなくて本能で動く。
今までに積み重ねてきた経験で判断する。
一歩、横に動いた。
ほぼ同時に鋭い斬撃が飛んできて、それを剣の刃で受け流す。
ノアの攻撃をどうにか凌いだところで反撃に出た。
一歩、強く踏み込みつつ、剣を横に薙ぐ。
目的は首。
いくら魔族であれ、頭部を切断されて生きていることはできない。
「甘いね」
俺がそうしたようにノアも攻撃を防いだ。
わりと簡単に。
……まいったな。
今のやりとりで。
そしれ、今までの攻防で。
俺はなんとなくではあるものの思う。
……このままでは勝てないな、と。




