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211話 人として

「断る」


 即答すると、ノアは驚いたような顔に。


 見守るアルティナ達は、よし! という感じの笑顔に。

 ソーンさんは……変わらずの無表情で、少しよくわからない。

 ただ、俺が受けるとは思っていないはず。


「ふむ……なぜ断るのか理解に苦しむのだけど、一応、理由を聞いても?」

「俺は人間だ。その生を歩いていく……それだけのことだ」

「魔族になれば今以上に強くなれるというのに?」

「そのようなもので手に入れた強さに意味はない」


 剣の道は一朝一夕ではならず。


 毎日、確かな鍛錬を重ねて。

 剣を研ぎ澄まし続けて。

 それでも、一生をかけても高みにたどり着けないことが大半だ。


 それを嘆く人はいるだろう。

 甘い誘惑に身を委ねる人もいるだろう。


 しかし。


 そのようなもので得た剣は本当の剣ではない。

 己の力で切り開くからこそ……だ。


 おじいちゃんに教わっただけではなくて。

 俺自身、そう考えるようになっていた。


「ふむ……やはり理解に苦しむな。最短ルートがあるというのに、なぜそれを選ばないのか?」

「急がば回れ、と言うからな」

「理解できないよ」

「理解を求めていないさ」


 改めて剣を構えた。


「決着をつけよう」

「いいだろう」


 後は剣で語ろう。




――――――――――




 剣撃の音が響いていた。


 刃と刃が重なる。

 火花が散る。

 時に裂帛の気合を迸らせる。


 どれだけの時間が経っただろうか?

 どれだけ刃を交わしただろうか?


 ガイとノアは激しい攻防を繰り広げていた。

 互いに一歩も譲ることはない。

 自分の剣を届かせるために、ありとあらゆる方法で攻撃を繰り出している。


 一撃一撃に極大の威力が秘められている。

 必殺。

 直撃すれば致命傷になるだろう。


 ただ、それが相手に届くことはない。

 ガイの剣撃も。

 ノアの剣撃も。

 防いで、あるいは避けられて。

 攻撃と防御と回避。

 その三つが延々と繰り返されていく。


 一瞬でも気を抜けば命を落とすだろう。

 崖の上で目隠しをして歩くようなもの。


 しかし、二人はまったく怯んでいない。

 むしろ望むべきというような態度で斬り結んでいく。


「……すごい」


 ガイとノアの戦いを見て、アルティナは小さくつぶやいた。


 ノアは魔族だ。

 剣を使うというのは、なかなかに予想外の展開ではあったものの……

 その実力はかなりのもの。


 悔しい事実ではあるが、自分よりも上だろうとアルティナは口を噛んだ。


 ただ、それ以上に驚きなのがガイの力だ。

 ノアは凄腕の剣士であるだけではなくて魔族なのだ。

 その身体能力は圧倒的。

 人間とは比べ物にならないほど上。

 拳一つで人の命を奪うことができて、岩を砕くことができる。


 そのような化け物を相手に、ガイは一歩も引いていない。

 互角の戦いを繰り広げていた。


 自分ならどうだろう?

 そのようなことは可能だろうか?


 いや、無理だ。

 いくらか喰らいつくことはできるかもしれないが、長くは無理。

 しばらくしたらやられてしまうだろう。


「……やっぱり、師匠はすごいわ」

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