210話 剣士として
剣を交わして。
時に、互いに隙をうかがい。
そして、再び剣を交わす。
「……」
「……」
俺は剣を構えたまま動きを止めて。
ノアも同じように剣を構えて足を止めた。
視線を激突させる。
隙を探り合うものの、俺もノアも動くことができない。
「……いいね」
ノアは笑みを浮かべた。
子供のように輝いている笑顔で、心底楽しそうだ。
対する俺は、たぶん、こわばった顔をしているだろう。
剣を交わしてどれくらい経っただろうか?
五分?
それとも一時間?
時間の感覚が曖昧になるほど神経をすり減らしてしまっていた。
思っていた以上に強い。
あと、どれだけ耐えることができるだろうか?
……というような感じで、勝利するイメージを持つことができなくなっていた。
かなりまずい。
剣だけではなくて、精神的にも負けてしまいそうになっている。
そのまま心が折れてしまっては完全に終わりだ。
「キミは本当に素晴らしい! まさか、ここまでの実力を持っているとは。予想以上だよ!」
「……そいつはどうも」
「キミをこの剣で斬ることはとても楽しみだ。ただ……同時に惜しくも思う。キミほどの剣士がここで消えていなくなる……それは、剣の世界にとっての損失ではないだろうか? 僕はそう思うよ」
過大評価が過ぎるのだが……
ノアほどの実力者に褒めてもらえることは、一応、光栄ではある。
これで心もまっすぐだったのならば、魔族であったとしても尊敬できたと思うのだが。
「そこで、僕は提案しよう」
「提案?」
「……魔族にならないかい?」
……
「は?」
あまりに唐突で、まったくの予想外の言葉に、戦いの最中ではあったものの、数秒、完全に思考が停止してしまっていた。
アルティナ達も同じ様子で、ぽかーんとしていた。
ソーンさんは……表情は変わらない。
ただ、まったく瞬きをしないところを見ると、やはり驚いているのかもしれない。
「ん? どうかしたのかい?」
「いや……すまない。今、なんて?」
こちらの動揺を誘う作戦だろうか?
それとも、魔族も冗談を言うのだろうか?
「キミも魔族にならないかい? と誘ったのさ」
聞き間違いではなかった。
そして、冗談を言っている様子もない。
「……本気か?」
「もちろんだとも」
こちらを騙そうとする感じもしない。
断定はできないが……
たぶん、ノアは本気なのだろう。
「なぜ、そのような話に?」
「キミは素晴らしい剣士だ。それをここで失ってしまうのは惜しいと思ってね」
「殺し合いを楽しんでいるのでは?」
「楽しみにしているよ。キミを斬るのはとても楽しいだろう……もしかしたら、最高の経験を味わえるかもしれない」
「それなのに見逃すような真似を?」
「繰り返しになるが惜しいと思ってね。ここでキミを殺したらそれで終わり。しかし、キミが魔族になれば今以上に楽しむことができる。そして、何度も戦うことができる。素晴らしい提案だと想わないかい?」
「……」
……本気みたいだな。
まさか、魔族になろうと誘われる日が来るなんて。
人生、なにが起きるかわからないものだ。
「ちなみに、本当に魔族になれることが?」
こんな問いかけをするものの、もちろん、魔族になるつもりなんてない。
本当にそのようなことが可能なのか?
可能だとしたら、簡単にできることか、難しいことなのか。
それを確かめておく必要があると思ったからだ。
「危うい賭けになるけどね。ただ、キミならいけると思うよ」
つまり、そう簡単にはできない、ということか。
それだけ聞くことができれば十分だ。
「どうだい?」
「断る」




