執事ラルフ
またこの屋敷に戻り、皆に受け入れてもらえることが、嬉しかった。
子爵邸のそばにある街に戻り馬を連れ仕事を探そうとしたが、ハミルトン家の皆が忘れられず、再びこの屋敷に戻ってきてしまった。
旦那様は「今まで私たちの家族のためよく尽くしてくれた。私達が平民になったことで、もう給金を払うことはできない、私達と別れて暮らすのがラルフのためだ」と言ってくれたが、優しい旦那様、奥様、お嬢様、坊ちゃんの顔が浮かび、どうしても別れて暮らすことが出来なかった。
とくにお嬢様は昔から体が弱く、私がこの家に来て子供の頃から一緒にいてお嬢様の世話をしていたが、病弱なお嬢様がこの厳しい暮らしなか、せっかく良くなってきた体がまた悪くならないかとても心配だった。
出来れば、旦那様、お嬢様のそばで彼らの少しでも役に立ちたい。
お嬢様は私の歓迎会だと言って、美味しいデザートを作ってくれた。
今まで寝てばかりいたお嬢様に新しいデザートを作れるなんて、考えたこともなかった。
ラルフは急遽自分に与えられた部屋の床の上で薄い毛布にくるまりながら、明日からは精一杯働こうと思った。
次の日ラルフは誰よりも先に起き、裏庭に泉があると言う話を聞き手桶を持ち散歩がてら行ってみた。
泉で顔を洗い、小枝を集めた。
泉の付近には実のついた木が5本ばかりあるだけで、薪にするような木はない。
冬になる前にすこし向こう側にある山に入り木を切って薪を作るしかないと思った。
泉の近くに鳥小屋があったので、古い木材で脆そうなので出入り口の扉の戸を補修した。
野菜を植えた畑の土を確認してみると、しっとりした黒い土で野菜が良く育ちそうだったので安心した。
正直、屋敷の入り口の庭を見た時、この砂交じりの土ではいくら強い野菜の苗でも育てるのは大変だと思っていた。
ラルフは小枝を抱え屋敷に戻っていった。
厨房にある瓶に水を入れようと厨房にいくと、お嬢様がなにやら楽しそうに歌を歌いながらなにか作っている。
今にも折れそうな体で野菜を刻みスープの下ごしらえをしている姿を見て涙がこぼれそうになった。
「ラルフ、おはよう」 とお嬢様は私に挨拶してくれた。
井戸の水を追加するため、もう一つの瓶を持ち、井戸で水を汲み戻ってくると、お嬢様は厨房にはいなかった。
あちこち探し、もしかしてまた具合が悪くなったのかと部屋に行ってベッドもみたが、何処にもいなかった。
心配しながら厨房でまっていると、お嬢様はリンゴ、ブドウの実、卵の入った籠を重たそうに持って厨房に入ってきた。
「ラルフ、今日はラルフの持って来てくれた乾燥肉と卵で美味しいスープをつくるわよ。楽しみにしていて」と私に笑いかけた。
私はその姿に驚きを隠しきれなかった。




