第30話「ALS」
ショパンとラフマニノフは音楽学校の他にALSという難病の患者の睡眠中の夢に出てあげるという仕事を持っている。
世界中にいるALSを発症した人の希望となるように。報酬は一人につき、出会うたびに100万生命ポイント。
今日はムトウという日本人のALSの人に会いに行った。
ムトウは人工呼吸器で延命治療した。
すでに寝たきりになり完全介護の状態である。
ムトウは夢でショパンとラフマニノフに会った。
ムトウ「不思議だ。こんなに意識が鮮明になっている夢を見るのは。普通は夢を見ているときはそれが夢だと気づけないものだが。あなた方が有名な音楽家のショパンとラフマニノフだなんて。本物なんですか?」
ショパン「僕たちは本物ですよ。ムトウさんに会いに来たんです。あなたはALSになって社会を明るくするアイデアを形にできなかった。夢をALSに奪われた。さぞ、苦しかったでしょう。なので、地球上でほぼ知らぬものなどいない私たち超有名な音楽家が会いに来て、少しでも慰めになってくれたらなと思いまして」
ムトウ「夢だとしても信じられません。ラフマニノフもショパンも知っていますが。何故、僕に会いに来るんですか?なにか理由でもないと」
ラフマニノフ「君たちALSの人たちに会いに行く仕事をしているんだ。報酬はしっかりお金でもらっているよ。死後の世界として、霊界に私たちは住んでいる。死んだあとは人間は霊界という場所で生きることになるんだ。ムトウさんは地上世界、物質界で今、生きている。ALSになった全ての人に会いに行くのが俺らの仕事だ。たまたま今回はムトウさんの番だっただけだ」
ショパン「ムトウさん。なにか、お願いはありますか?せっかく会えたんです。なにかしてあげたい」
ムトウ「ふと、物心ついたときから感じていた疑問なんですが、なぜ、死後の世界である霊界があるのなら、こんな物質界というか今、自分が住んでいる世界で苦しまなくてはならないのですか?この自分が住んでいる世界は、苦しみだらけです。早く死にたいと思っている人も多い。何故、神様はこんな苦しい世界を作り、人間を送り込むようなことをするんですか?」
ラフマニノフ「君の納得のいく答えになるかどうかは分からないが、俺から一つ言えることとすれば、人間が感じた精神的苦痛、肉体的苦痛、痛みなどは全て数値化されて生命データという場所で記録されている。それが、死後に行く世界でお金に代わるんだ。俺たちの住んでいるこの霊界でもお金はあるんだ。それがあれば様々なことができるし、楽しめるし、有利になる。無駄なことにはなってないんだよ。苦しんだら苦しんだだけ、しっかりと報われるようになっている。
また、お金だけじゃない。ショパン。続きはお前から話してくれ」
ショパン「ムトウさんが今住んでいるその世界でも、苦しんだ分だけ、必ず良いことがある。それは神が作った自然の法則なんだよ。神はどん底を経験した分だけ、それ相応のご褒美を必ず用意してくれているんだよ。苦しみが多かった分、必ず喜びや幸せは後から押し寄せてくる。ALSとして苦しんだ分だけ、不自由を感じた分だけ、死後、肉体から解放され、ALSから解放され、全てから自由になったときの喜びは計り知れない。お金ももちろん、苦しんだ分だけ、貯金さ
れていて霊界で使えるようになる。それに一番大事なことは、人間は物質界に自ら望んで生まれてくるのです。霊界では全てが自由だ。何でもほぼ思い通りだ。だからこそ、不自由が恋しくなる。苦しいことがありがたく感じて、苦痛を求めるようになるんだ。霊界での生活でもいずれ飽きが来る。だから、物質界で新しい刺激を味わおうと、転生してくる」
ムトウ「この世界にいるのは自分の意思だったんですね。自分で生まれてきて、転生してきたんですね。なんか、少し、苦しんでいる分、必ず報われるんだって。元気が出ました。会えてよかったです。同じALSの人に会ってくれて、僕らに希望を与えてくれている。嬉しいです。ありがとう」
ショパン「ムトウさんに一つだけ約束してほしいことがあります。夢で私たちに会ったことをたくさんの人に話してください。広めてください。今、話したことも全て。そうして、地上世界でもALSの人がショパンとラフマニノフにいつか会えるかもしれない。と、希望を持ち、楽しみにして生きるのが少し面白くなるかもしれません。そのために⋯⋯この私たちの仕事が地上で広まり、噂になってくれることを期待し
ているのです」
ムトウ「でも、僕はもう声を失っていて、話すことができません。その願いは叶いません。ただ、目で文字を入力する機械があるので、できるかもわかりません。挑戦してみます」
ラフマニノフ「まあ、地上で噂にならなくても、ムトウさん本人が俺たちに出会ったことを、どんな苦しみも無駄にならず、報われることを知って、明るく前向きな気持ちで生きていってくれれば私たちは本望だ」
ショパン「ムトウさん。そろそろ行きますね。希望を持ってください。無駄なことなんて何一つないんですからね!!!苦しんだだけ素晴らしい世界へと行けるのが、絶対的霊界法則ですよ!」
ムトウ「感謝します。本当感謝します」
ショパン「ムトウさんがこれだけ体が動かない極限状態の中、、限界まで人間としての可能性を追求して、、発揮していく姿に、、体が動く私は何やってんだ!! もっとできる、、動けると、、力をもらえます。。ムトウさん。。ありがとう」
ラフマニノフ「霊界に来れば、、体を自由に動き回れるからな。。楽しみに希望を持ってこれから過ごしてほしい」
ムトウさんは泣いた。
こんな喜びは人生でもそうないだろう。
ショパンとラフマニノフはまた一人の人間に希望と元気を与えた。




