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第23話「存在していることの苦しみと喜び」

満月が水面を黄色く輝かせている。


 川か、湖か、海かはご想像に任せよう。その水の上を船が浮かんでいた。


静かに、月明かりに照らされてその船に1人の人間が腰を下ろして座っている。


 何か手紙を書いている。


 辺りは誰もいないで不気味な静寂さだけがその人間を包んでいた。


 月の光を頼りに手紙にペンを走らせている。幻想的な雰囲気だ。


 しかし、人間の表情は何やら涙が頬を流れて、くしゃくしゃな顔をしていた。


その人間の表情を考えるに、誰かに別れの手紙でも書いているかのようだ。


 いや、きっとそうに違いない。


 手紙に彼の涙がこぼれ落ちて、インクが歪み、見えづらくなった。


「僕たち、もう会えなくなるんだね⋯⋯」


 その人間は心の中でボソっとつぶやいた。


 その人間はフレデリック・ショパン。


 川でも湖でも海でもなく、なんと田んぽに小さな船を浮かべ、焼肉を焼きながら、曲の構想を練っていた。


 手紙を書いていたのは、ショパンの作曲するときのやり方だ。まずは、曲にしたい感情をそのまま素直な文章で手紙を書き、その手紙からインスピレーションと刺激を受けて、旋律を受け取るという構図だ。


 ショパンは田んぼが好きだった。祖国ポーランドの田園風景が彼に懐かしさという感情を与えてくれるからだ。


 相棒のラフマニノフはショパンと違い、海で作曲をしている。海で日光浴しながら、波に揺られ、パソコンでだ。


 ショパンは夜に度々、このように田んぽに船を浮かべ、カエルの鳴き声を聴きながら、作曲に励むことがある。


 ラフフマニノフとはいつもー緒に行動してきたから、たまに一人になる時間が欲しいのかもしれない。


ラフマニノフ「よお!ショパン!約束の2時に来たぞ!曲の構想はだいぶ進んだか?」


ショパン「ラフマ。寂しかったよ。やっぱり、一人って寂しいね。この満天の星空と静寂な田園に船を浮かべて、美味しい焼肉を食べることは結構、楽しくて、幸せなひと時なんだけど。やっぱり一人より二人のほうがいいね。あえて、少し一人になる時間を生み出すことで、ラフマの存在が当たり前になっている感覚を新しく更新し、ラフマに感謝できるようになるようにしているんだが」


ラフマニノフ「そうだ。俺がいることは当然のことと思ってもらっては困る!感謝したまえ!」


 2人は焼肉を食べながら、ワインとビールも飲みだした。


ショパン「あっ、カエルが肉を狙っている。あっ、食べられた」


ラフマニノフ「ここが霊界じゃなかったら、カエル焼きになっているところだったな。ここのカエルたちを酒にしてみないか?酒に浸してカエル酒をつくるなんてのは?」


ショパン「えーーー。ゲテモノ嫌いだよ。それより、最近、自分の存在が怖くなるよ」


ラフマニノフ「どういうことだ?」


ショパン「生前は死ねば天国はなくて、霊界もなくて、終わりだと思っていた。でも、人間は死後も永遠に生き続けるってなって、永遠に生きるなんて辛いなんて思ったりしてるんだ」


ラフマニノフ「しかし、死ねば全ておしまいだったら嫌だろう。俺は永遠に生き続けることを嬉しく思うよ。だから、ショパンとこのような予想外な新しい人生になったわけだしな。神を恨んだこともあるが、今は、幸せだからな。俺は」


ショパン「永遠に生き続けるって、怖いんだよね。ずっと意識があるってことだよね。なんか自分の存在が怖い」


ラフマニノフ「それより、ショパン。今回の手紙はどんな内容だったんだ?どんな思いを曲にしようと思っていたんだ?もちろん、お前のことだからピアノ曲だろうが」


ショパン「最近、ラフマが一旦僕から離れるって聞いたときの一瞬の絶望と悲哀をね。正直、ラフマと別れるのは、兄弟家族と別れることよりも怖いし、辛いんだ。心に穴が空いてしまう。たかが一瞬だけど、あのときの夢でのラフマの言動が僕を曲作りに向かわせてくるんだ。私の次なる超傑作を目指したい。ラフマが関係しているから、自分最大のお気に入りになると思う」


ラフマニノフ「ホタテも焼こうか。ああ、美味しいな!そんなくさいこといってないで、食べろ!」


ショパン「僕たち、ずっと一緒だよね?」


ラフマニノフ「もう、言うのも嫌だ。今まで何を聞いていたんだ?」


ショパン「存在していることの喜びと、永遠に消滅できない苦しさのはざまにいつも揺れている。僕の悩みを忘れさせてくれるのは君だから、これからもよろしく!」


ラフマニノフ「ショパン。焼肉が冷めるぞ?お前の分も焼いてやっているんだから、感謝しろよ!」


ショパン「ラフマ。聞いてる?真面目な話なのに」


ラフマニノフ「ああ、聞いてるよ。とにかく、必ず物事にはメリット、デメリットがある。善と悪。両面を兼ねそろえて、全ては存在している。存在していることの喜びがあるということは存在していることの苦しみもあるということだ。喜びだけをとることはできないし、喜びだけしか感じなかったら、その喜びすら、喜びと感じられなくなる。喜びと感じられるのは、苦しみがあるからなんだからな」


ショパン「そうだよね。苦しみがあるから、喜びがあるんだよね。どちらか一方だけってことはない」


ラフマニノフ「存在している苦しみを感じないようにするのはあきらめるしかないな。俺だって不意に怖くなり、不安になるよ。でも、それをショパンという酒で酔って忘れている時間を増やしたいと思っている。人から離れるな。特に俺からな。孤独になると、考える時間が増えて、辛くなるからな」


ショパン「君は相談役として優秀だね」


ラフマニノフ「これからもどんどん頼ってくれ。その代わり、俺も頼るからな。ギブ&テイクだ」


ショパン「お互い、助け合いだね。僕も頼もしい相棒を目指すよ」


ラフマニノフ「隠し事だけはするなよ。なるべくな!俺たちは素直になんでも言いたいことを言える仲を目指そう!」


ショパン「ラフマは言いたいことを全て隠さず言い尽くすタイプだから問題ない。内気な僕の課題だね。それは。」


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