第46話:絶体絶命(フラグ)? 異国の地で初めての鬼ごっこ
「ちょ、待ってください……。なんであんな重装備の連中が、こんなところにいるんですか……っ!」
俺は、茂みの陰で心臓の鼓動を抑えつけるのに必死だった。
目の前を通り過ぎていくのは、唐と新羅の混成パトロール部隊。革と鉄を組み合わせた、いかにも「プロ仕様」な鎧が、カチカチと嫌な音を立てている。
隣にしゃがみこんでいる中大兄皇子が、刺すような冷たい視線を俺に向けた。
「……海斗。貴様、先ほどまでの威勢はどうした。あの『魔法の飯』とやらは、逃げ足も速くしてくれるのか?」
(出たよ、相変わらず口の悪いプリンス節……!)
俺は心の中で毒づきながらも、必死で顔を引きつらせて答えた。
「皮肉言ってる場合じゃないですよ! こっちは教科書でしか見たことない本物の『唐の軍隊』なんですよ。ビビらない方がおかしいじゃないですか……!」
俺は震える手で、地面の土を無意識にいじった。
正直、さっきまでインスタント雑炊を作って兵たちと盛り上がっていた自分が信じられない。ここは戦場だ。それも、日本史上最大級の負け戦になるはずの「白村江」の真っ只中なんだ。
後ろに控える事務方の不比等も、顔を真っ青にして俺の袖を引く。
「海斗様……。貴様の仰る通り、ここは非合理的な特攻を避けるべきです。ですが、どうやって……」
「どうやってって言われても……。あ、そうだ。学校の避難訓練で言ってた……じゃなくて、えーっと、昔の本で読んだやつを思い出せ……!」
俺はパニックになりそうな頭を必死に叩いた。歴史の年号なんかじゃなくて、もっと身近なサバイバルの知識……。
「……あ、煙だ! 焚き火に生木を放り込んでください! 煙幕を作るんです!」
俺は必死に声を絞り出し、周りの兵たちに指示を飛ばした。
「みんな、一箇所に固まっちゃダメだ! 散開して、できるだけ煙を立てて! 匂いと煙で視界を遮るんだ。その隙に、あっちの深い森へ逃げ込むぞ!」
「……ふん。相変わらず、貴様の考えは卑怯というか、泥臭いな」
中大兄皇子は鼻で笑ったが、その手は既に刀の柄にかかっている。
「卑怯で結構ですよ! 生きて帰らなきゃ、国作りも何もないんですから!」
俺たちは、煙が立ち込める中をなりふり構わず走り出した。
背後から聞こえる唐の兵士たちの怒号。心臓が口から飛び出しそうだ。現代のぬるま湯に浸かっていた俺には、この命のやり取りは刺激が強すぎる。
「はぁ、はぁ……。よし、なんとか巻きました……かね……?」
森の奥深くで、俺は膝をついた。
「海斗、安心するのはまだ早い。貴様がさっき言った通り、これはほんの序の口だ。奴らはすぐに態勢を整えてくるぞ」
中大兄皇子の言葉に、俺は顔を上げた。
確かに、遠くで軍鼓の音が地鳴りのように響いている。
歴史の授業で聞いた「白村江の戦い」。その地獄の門が、いま目の前で開き始めていた。
【今回の学習ポイント】
・白村江の戦い:ぶっちゃけ、当時の日本(倭国)が調子に乗って「最強の唐」に挑んじゃった大一番。結果は……聞かないでくれ、歴史が証明してる。
・唐・新羅連合軍:今の時代で言うところの「多国籍軍」みたいなもん。装備も兵法も、当時の日本とはレベルが違いすぎて、マジでシャレにならない。
・煙幕と撤退:かっこよく勝つのもいいけど、まずは「死なないこと」が大事。負け戦からどうやって国を守るかってのが、これからの日本を形作る大きなポイントになるんだ。




