第44話:アウェイ戦は前途多難? 泥沼のランディング・ページ
「……あー、もうダメだ。俺、前世(?)で船乗りの訓練でもしとくんだった⋯⋯」
朝鮮半島を目指す船の中で、俺は再び三半規管との戦いに敗北していた。
周囲を見渡せば、筑紫の荒くれ者たちも、さすがに玄界灘の荒波には黙り込んでいる。そんな中、不比等だけが、揺れる船上で器用に木簡に文字を刻んでいた。
「海斗、いつまでシステムダウン(船酔い)しているのです。もうじき上陸ですよ。ほら、陸地が見えてきました」
不比等に首根っこを掴まれて無理やり立たされると、霧の向こうに黒々とした陸地が姿を現した。
「……あれが、百済?」
「正確には、百済があった場所、です。今は唐と新羅の連合軍が占領しているエリアがほとんどですが……」
船が接岸すると、そこには歓迎の列……ではなく、ボロボロになった服を着た人々が、すがるような目でこちらを見ていた。百済の遺臣や、行き場を失った民たちだ。
「……これ、マジの戦場じゃん」
俺が呆然としていると、甲板に中大兄皇子が降りてきた。鎧の擦れる音が、妙に冷たく響く。
「海斗、不比等。感傷に浸る時間はない。すぐに仮の陣を張るぞ。地元の協力者から情報を吸い上げろ。敵のサーバー……いや、拠点がどこにあるか、一つ残らずだ」
「は、はいっ! 了解っす!」
俺はフラつく足で地面を蹴った。
すると、地元の避難民の一人が、俺の腕を掴んできた。何かを必死に訴えているが、言葉が通じない。
「あー、えっと……『だいじょーぶ、ノープロブレム!』って、通じるわけないか。不比等、翻訳(通訳)頼む!」
「やれやれ。彼らは『食料はあるのか』と言っています。海斗、貴様が日本から持ち込んだ、あの『怪しい乾燥食品』の出番ではないですか?」
不比等が指差したのは、俺が筑紫で「これ、お湯入れたら食えるんじゃね?」と適当に乾燥させてパッキングしておいた、即席の干し肉と野菜のセットだった。
「……お、俺の非常食が、こんなところで役に立つのか?」
【今回の学習ポイント】
・朝鮮半島への上陸:当時の日本軍は、いくつかの部隊に分かれて半島へ渡ったんだ。百済の王族「鬼室福信」たちが各地で復興運動をしていて、彼らと合流するのが第一のミッションだったよ。
・言葉の壁:当時は漢字を使っていたから、筆談(文字で書くこと)である程度は意思疎通ができたという説もあるんだ。
・兵糧問題:遠征で一番大変なのは「ご飯」の確保。実際に当時では干し肉(糒・乾肉)や「野菜を干す」(干し菜)という文化も定着していたんだ。その他にも味噌のルーツと言われる「醤」もあったと言われてるんだよ。




