第42話:作戦会議はカオスなり――即席の「防衛ライン」
「……それで、敵の状況はどうなんだ、不比等」
俺は、中大兄皇子の鋭い視線に背筋を伸ばしつつ(これでも一応、ビビってはいる)、広げられた地図を覗き込んだ。
「はい。敵の先遣隊は小規模ですが、こちらの練度を測っているようです。筑紫の豪族たちもやる気にはなっていますが、いかんせんバラバラで……」
不比等の報告を聞きながら、皇子は眉間にシワを寄せた。
「母上は『明日にも出陣だ!』と息巻いておられるが、このままでは統制が取れん。海斗、貴様ならどうする。何か、あっち(未来)の知恵はないのか」
「えっ、俺ですか? いや、軍師とかじゃないんで難しいことは……。でも、あれっすよね。バラバラなのが問題なら、チャット……じゃなくて、合図を統一しちゃえばいいんじゃないですか?」
「合図だと?」
「そう。今は太鼓とか旗ですよね? でも、それだと混ざっちゃうから。例えば、鏡を使って太陽の光を反射させるとか。モールス……えーっと、キラキラさせる回数で『右に行け』とか『一旦引け』とか決めておくんです」
俺がポケットから(たまたま持っていた)手鏡……の代わりの、磨かれた金属板を取り出して見せると、皇子が目を見開いた。
「光か。……確かに、音よりも速く、遠くまで届く。不比等、すぐに実用性を検証させろ」
「御意。……海斗、たまには役に立つゴミ(アイデア)を出すのですね」
不比等が皮肉っぽく笑う。
そんな中、外からは斉明天皇の「さあ、船を出すわよー!」という豪快な号令が聞こえてきた。
「……海斗。戦が始まれば、もう後戻りはできんぞ。覚悟はいいな」
皇子の言葉に、俺は少しだけ真面目な顔をして頷いた。
「正直、怖いっす。でも、やれるだけのデバッグ(対策)はしておきますよ」
【今回の学習ポイント】
・鏡による通信:実は古代でも、鏡の反射を利用した通信があったという説があるんだ。海斗の思いつきだけど、当時の技術でも「光の反射」なら実現可能だったんだね。
・中大兄皇子のプレッシャー:母(斉明天皇)はイケイケの主戦派、現場の豪族たちは不満たらたら。その板挟みで、実質的な軍司令官として動いていた皇子の苦労は相当なもんだったはずだよ。
・即位しない理由:中大兄皇子は、この頃まだ「皇太子」のまま政治を行っていた(称制)。正式に即位する余裕がないほど、国際情勢が切羽詰まっていたとも言われているんだ。




