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第二十五話

本多正純の思索は続いていた。


将軍の今回の目的は御所に参内し申し開きする事、方広寺での四十九日法要に参列する事の2点で、それ以外は何もする必要は無い。ところが、彼の予定は、公家や大名との会見でびっしり埋まっていた。

その中である夜に公家との会見が連続している事に気付いた。何か気になるな。大名達が将軍に会いたいのは理解できる。少しでも心象を良くして領地を維持したいのだ。公家にとって、将軍と知り合いである事の利点は何だ。金を融通してもらえるかも、という期待か。いや、そんな事はない。ならば、これは罠だ。この夜に真田大助は仕掛けて来る筈だ。

問題の夜は、お江の方がは姉と会う夜であった。恐らく公家達の方から、会見の中止要請の連絡が次々と入るのだろう。一晩の予定がまるまる無くなった後に、真田大助の手による密談・密会の誘いが入るのだ。恐妻家の男が、嫁の監視の弱まる夜に何を望んでいるのか、予測は簡単だろう。

何を仕掛けて来るか。本多正純は最近新たに京で流れている噂話を思い出した。

『豊臣が浪人を雇う事を止めて、節約した金を一部の公家に渡して、関白復帰を狙っている。その後、征夷大将軍の罷免も視野に入れている』

さて、この噂をどう解釈するか。『豊臣が浪人を雇う事を止めて』というのは事実。それ以降については、噂を流した者の信じて欲しい内容に過ぎない。噂を流したのは間違いなく豊臣であろう。『金を一部の公家に渡して』というのはまやかしであろう。殆どの公家が『自分以外の誰かが豊臣から金を得ている』事を信じるだろう。一部の跳ね返りが豊臣憎しで結束し、ある事無い事徳川に吹き込もうとして・・

・。豊臣の策としては、この流れで進むのであろう。豊臣に恥をかかされた、という怒りの感情を持った将軍は、豊臣の計略に乗ってしまうだろう。

将軍が公家との密談の席に招かれるのは間違いないであろう。だが、誰が将軍を誘う。将軍を呼ぶのだから、そこらの料亭・座敷という訳にはいかない、声を掛けた公家の家屋で行うのではないか。それなりの格式も必要だから、偽の公家をでっちあげる訳にもいくまい。だから実在する公家が選ばれる。だが、どうして豊臣の依頼を実行する必要があるのか?将軍の命を取るに等しい行為である、発覚すればどんな格式がある家であっても取り潰しは免れない。その様な策を、誰かに犠牲を強いる様な策を真田大助は採らないであろう。ならば、当日あるいは前日に屋敷の住人全てを入れ替えるつもりなのだろう。豊臣の謀略がどこで行われるか、前日までわからない、という事か?そんな事はない。これだけ大掛かりな仕掛けだ。必ずどこかに兆候として表れる筈だ。

・・・女か。将軍を密談の席に確実に誘い込む為には、酒それに女を用意するだろう。その夜に誰から注文が入っているか、八坂神社辺りの店を調べてみるか。店をあげての注文が公家から入っていたら、そこが密談の場であろう。後はどんな手段を用いて、将軍を牽制するかである。

それこそ、毒か。いや、違うな。それは徳川の毒見役を出し抜ける、と証明する事だ。殆どの人には何という事も無い食材が、特定の人には命を奪う元となる、そういう事例があることは承知している。しかし、今の将軍にそんな食材は無いし、あったとしても毒見役が把握している。もし、我等も知らない将軍の不得手な食材があれば、この局面で使うのは勿体無い。もっと土壇場、例えば降伏時の条件交渉とか、で使う筈である。よって毒を使う事はないだろう。

では、刺客を使うか。それも違うな。刺客を使って恫喝する、それはわかりやすいが、影響が大き過ぎる。利用した公家はどうなるか。誰かが責任を取る事になる。そんな策は真田大助は採らないだろう。

残るは、当日呼ばれる芸妓達に交じって入り込むという策だ。芸妓ならば、将軍と触れ合う機会もあるだろう。恐らく将軍の好みの容姿や肉付きを調べているのだろう。酔った将軍が芸妓を触ろうとするのを、軽くあしらいながら、急所を狙う。体術に優れた忍びなら可能であるし、周囲から見れば酒の上での戯れに過ぎない。芸妓は何事もなく帰るだろうし、公家達も無事に解放されるだろう。真田大助の採る策がこの様なものだとして、どんな策が有効か。将軍をあしらう前に、芸妓に警告を与えればいい。その場に来る芸妓達の中で、将軍の好みが誰なのかは判断出来るだろう。芸妓の遊戯の中でその女に、相手がしようとした方法で警告を与えるのだ。これならば、将軍の側に体術に優れた者を一人付けておくだけでいい。密談の場がどこであっても対応できる。第一、俺が京まで行って指示を出す必要がない、というのが最大の利点だ。

恐らく真田大助も上洛しないであろう。今回は策の読み合いの勝負である。当日の思い付きで変更するのは、そもそも策の完成度が低いのだ。そんなものは評価に値しない。真田大助よ、俺を越えるものを見せてみよ。


「それでは、皆さん宜しくお願いします」

僕は秀頼公、千姫様、英以江さんに頭を下げた。

これから京に向けて出発するのだ。既に先発隊として三百名が三日前に京に向けて発っている。

本日は秀頼公、千姫様、英以江様、彼等の侍従、大野治長さん、大野治房さん、明石全登さん、淀の方のお局様達、護衛の方々、荷物を運ぶ方々、等総勢五百名に及ぶ者達が京へ向かう。数には入っていないが、三人を守るべく忍びが数十名大坂を発つ。更に後発隊として父上を始め二百名が京に予定だ。合計一千名が京に向かう。

僕はというと大坂城でお留守番である。裸城とは言え、大坂城を裸にしておく訳にもいかない。

大坂城で今後の戦略を立てる事になるであろう。豊臣家の未来と僕自身の未来を。










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