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第二十三話

ここで彼女のプロフィールを整理してみよう、と思う。彼女が敢えて語っていない事に、彼女の思惑・本心が隠れている筈だ。


本名は 〇〇千尋(姓は不明) 結婚して息子(1人以上)がいる。

学歴・職歴  大学名は不明だが 理学部物理学科 博士課程後期修了

       修了後は 研究機関を転々としている。研究テーマは時間跳躍

       合計して数年間、結婚・出産・育児による休職期間がある

       恐らく65歳以上 タイムリープの基礎理論を完成させ、実験装置を建造

               第1号被験者としてタイムリープし、魂を過去に飛ばす

異世界へ遷移するにあたり、名前を 〇〇千尋 → 千 に変更

       1602年 徳川秀忠・お江の方の娘として転生(憑依?)

       1603年 豊臣秀頼と結婚、大阪城に入る

       1615年 真田大助と再会  


以上が、彼女自身が僕に語ってくれたプロフィールである。彼女の今後の野望において、これらを僕に伝える事は恐らく影響無いのだろう。

彼女の前世は、僕との再会を夢見たタイムリープの開発に捧げられている。世間からの嘲笑もあっただろう。進まぬ研究に絶望した事もあっただろう。幾つもの困難を乗り越えて完成させた理論と、実験装置はどのレベルであったのだろう?

彼女の研究は、『二十一世紀の真田大助が十七世紀の真田大助に転生している』という仮説の実証であり、それは僕が偶然体験した転生を、人為的に行うという事だ。だとすれば、肉体的な死を前提とした恐ろしい研究ではないのか? 

また、彼女の願いが『僕との再会』にあったのならば、僕の近しい人物に転生する必要がある筈。僕の知っている真田大助の生涯よりも、彼女の知っている真田大助の生涯は長く華やかなものであっただろう(そう願いたい)。どうして転生したのが1602年の千姫様だったのだろうか。僕がこれから先に出会う僕の奥さんにでも転生していれば、めでたしめでたいではないか(やはり独身のまま死ぬのだろうか)。つまり転生先に選ばれる人物については何等かの条件があり、真田大助の生涯において出会う人物の中で最もふさわしい人物が千姫様だったという事か。そして、彼女は転生先選定のメカニズムを解明し、千姫様に転生した。

彼女が「1615年を目指して1602年にズレた」と言ったのは何故だろう。これは誤差の問題にして、重要な何かを隠したいのではないか。誤差の精度が大きく、千姫が産まれる前にジャンプしては元も子もないし、1615年以降にジャンプするリスクもある。誤差が大きい段階では、いくら老い先短い身であったとしても、一生に一度のチャレンジはしないだろう。彼女は1602年を目指して、1602年に飛んだとしたら?秀頼公の嫁として大坂城に登る前、秀忠公・お江の方の元で暮らしていた時である。彼女が徳川の元でやらなければならない事は、腹心の部下の選定・見極めであろう。大坂に連れて行くメンバーの人選を行ったのではないか?秀頼の嫁になった後での千姫に転生したのでは、『籠の鳥』で何も出来ない。だから、彼女は腹心の部下を伴って入城したのだ。彼女は語っていたではないか。「歴史を変えない様に、自重していた」と。彼女は自分の願う世界にする為に、歴史を変えない様に注意しながら、時間をかけて体制を整えてきたのだ。そしてこの世界に無事僕が転生して来た今、歴史を変える事に躊躇はしないだろう。彼女が僕に宣言したのは、彼女が僕に対してアドバンテージを持っているからだ。僕の一生を把握しているのだから、どんな局面でも予測は可能だろう。

それでは、何故僕に自分の正体を告げたのだろう?余計な事を言わなければ、僕の行動は予測の範疇に収まる筈だ。ということは、彼女の願う世界へ到達するには『僕との再会』が必要不可欠だった、という事だ。それは一体何だろうか?


千尋ちゃんの人生を見ると、その全てが研究に捧げられている。研究テーマはタイムリープという荒唐無稽なもの。世間からはとんだ道化と見られていただろう。

そんな彼女の生涯において、結婚とか子供はどんな意味があったのだろう。

心が弱った時、つまり研究へのモチベーションが下がった時に結婚・出産した、と僕に言ったが、これは本当だろうか? 夫の名前や職業、子供の人数・名前・職業等明らかにされていない事は多い。唯一わかっているのは、タイムリープの際に後事を息子の託しているのだ。

息子さんは科学者なのだろうか?タイムリープ理論の継承者?世迷言の危険極まりない内容を引き継ぐのか?

彼女のタイムリープの中で、最大の課題は行ったきりで戻れない事だ。息子さんが研究を引き継ぎ、元の世界へ戻られる様にしたら?明日にでも迎えにくるだろう。

彼女が最後に言った言葉を思い出す。『降参するなら、あなただけは生き延びられる世界へ連れて行ってあげる』宣戦布告ではなく、『元の世界へ戻ろう』という勧誘ではなかったのか。それでは彼女の提案に従っていれば、めでたしめでたし、なのか。

いや、違う。僕は既に淀の方を殺しているのだ。僕のせいで運命が変わった人間も数十人といるだろう。そしてこれからも、僕自身が生き延びる為に、人殺しの策を命令し続けるだろう。そんな人間が、役目を放棄して元の世界へ戻る事なんか許されるだろうか。そんな事をしたら、元の真田大助さんはどうなるのだ?元の魂を戻す方法がわかるまでは、僕は戻れない、いや考える事すら許されない様に思う。

彼女の中で迎えに来る日をいつに想定しているのだろうか。彼女の口ぶりからして、しばらくはないだろうと思う。疎外しているものは何だろう?

それが隠されている情報に由来するのだろうと思う。転生してから僕は考え続けていた。どうして真田大助が真田大助に転生したのかを。転生先で宿主の魂を追い出したのか眠らせているのかわからないが、表面に出ない様にして乗っ取るのは、精神力というか自我の強さの差ではないか、と思う。自我の中心に自分の名前があり、それが『自分は自分』『自分らしさ』に繋がっているのではないか。この時代では幼名があり、姓も名も頻繁に変わる。その為に『自分らしさ』の打ち出しにおいて、生まれてからずっと一つの氏名を使っている我々が優位に立っているのだ、と。

彼女は僕の一生を調べ尽くし、タイムリープの研究を始めてから、結婚し、出産した。すなわち、新たな転生者候補を作るべく、結婚し名字を変え、子供を設け命名したのだ。

今回の告白で彼女は結婚・出産に関する事を秘匿した。これは、僕に次の転生者の正体や、出現する時期を悟らせない為では無いのか。何の為に?転生者が来るまでに、僕と千姫様の間で決定的な対立を迎えるのだろうか、だから彼女は僕を屈服させたいと思っている。

これは僕の勝手な思い、妄想かもしれない。

真実はやがてわかるだろうが、対策は必要だろう。

だが、僕にちひろちゃんに拳を振り上げる事が出来るだろうか?とても出来そうにない。

 

いつの間にか、夜が明けていた。

徹夜していたらしい。

切り替えなければならない。

転生だの、タイムリープだのは、一人の時に考えればいい事だ。

今は豊臣方の軍師として、秀頼公を勝利に導く事だ。

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