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第十九話

宇喜多秀家さんと僕が入った事で、論議の場にも変化を生じた。

これまでは秀頼公の元七人の幹部が同格という事で論議を重ねていた。それが、秀頼公と七人の間に秀家さんと僕が入る事になるのだから、心中穏やかではないだろう。秀家さんは真田家が呼んだ事もあり、真田派と見られ、幹部九人中三人を真田派(と思われる人物)で占める事となる。豊臣家を真田が牛耳っている、そう思われない様注意しなければならない。一致団結が重要。”妬み”、”やっかみ”、要注意である。

僕は秀頼公の隣に座った。秀頼公を僕と秀家さんで挟む形で、七人に対峙する。

「唐突で申し訳ないのですが、宇喜多秀家さん、名前を変えませんか?」

「ほう、それは何故じゃ」

「はい。宇喜多秀家さんは八丈島で亡くなった事になっております。従って、ここにいるのは、あくまでも別人です。もし、正真正銘の宇喜多秀家と主張されるならば、大坂は幕府の沙汰を無視して入城させた事になり、徳川方に大坂城を攻める口実を与える事になります」

「ふうん、色々細かい事を気にする奴だな。まあいい。今後は浮田英以江と名乗る事にしよう」

何だよ、それ。暴走族かよ。

「ありがとうございます・・・それでは論議を戻したい、と思います。淀の方の四十九日法要において、大御所、二代将軍、お江の方を罠に仕掛けます。今回は彼らを殺す事は致しません。『いつでも殺す事が出来る』という事を幕府に思い知らせるのです。秀頼様と千姫様は法要の二日前に、二条城で大御所と会見していただきます。英以江さん、秀頼様に同行して下さい」

「儂に虎の代わりをせよ、と言うのか。面白い、引き受けた」

「大御所に仕掛ける罠につきましては、僕が秀頼様、千姫様に説明いたします。会見の後の宴の席で、ちょっとした芝居をしていただくだけです。問題は将軍夫妻です。大野さん、御二人の意見をお聞かせ下さい」

大野治長さんが立ち上がり、説明を始める。

「お江の方には、法要の前夜にお初の方と姉妹で語り合う席を設けます。その場に眠り薬を流して、眠らせます。『あまりによく眠られていたので、起こすにしのびなく・・・』という事で、徳川方に丁重に送り返します」

続いて大野治房さん。

「将軍については、恐妻家と聞き及んでおります。お江の方が妹御と会われる夜に、公家の連中と酒席を設けます。その席に呼んだ芸妓達の中に、我等の忍びを潜ませて、警告を与えます」

二人は僕と英以江さんの顔を見ている。英以江さんは『御前が話せ』と言わんばかりの表情だ。

「・・・悪くはないと思います。お二人の案を元に練り上げていきましょう。敵は恐らく本多正純でしょう。僅かな痕跡からこちらの意図を見抜き、その上で対抗策を仕掛けて来ます。ですから、今回の策は、標的にとって避けがたい理由があり、実行者が成功するにしろ失敗するにしろ安全に抜け出せて、我等の謀略だと発覚しないものでなければなりません。それを念頭に考えていきましょう。まずは、治長さんのお江の方の件です」

僕は続けて言う。

「お江の方を呼び寄せるのに、お初の方を使うのはいいと思います。ただ、徳川としても豊臣の罠が十重二十重に仕掛けられていると思っているでしょう。お江の方から山科とか堅田で会いましょう、と言われれば破綻してしまいます。だから、京で会わなければならない『理由』がいるのです」

「姉妹が会うのにどんな理由が必要だと言うんですか」

若干キレ気味の治長さんに、僕は落ち着いた口調で言った。

「通夜にしろ四十九日にしろ、故人を偲ぶ為のものです。ですからお二人にとって、お姉様を偲ぶ仕掛けがあればいいかと思います」

「・・・そうか、淀の方の女中だった局達を行かせて、生前の姉の様子を聞かせればいいんだ。そうすれば、二人が京で会う理由になる」

「はい、それはいい案だと思います。お局様達の段取り、お願い致します。・・・次に眠り薬の件です。どんな薬を考えておられますか?」

「鳥兜とか蟇蛙とか・・・それらを燻して、煙を部屋に流します」

「毒とか薬に関しては、真田に詳しい者がおりますので、彼女と相談して下さい。・・・それから、燻した煙を部屋に流すのは困難だと思います」

「何故、そう思われる?」

「燻した煙が上に行くか、下に行くかはわかりませんが、建物の床下や天井裏で火を焚く訳にはいかないでしょう。竹筒を使って、遠くで燻して送り込むのですか?そんな事をすれば、必ず敵に見つかるでしょうう。敵を撃退してでも実行する、という意気込みはわかります。だけど、敵の人数がわかりませんし、敗ければこちらの策が晒される事になります。それは得策ではありません」

「では、燻すな、と?眠り薬を使うな、と?」

「そうではありません。場所は京で、二月下旬、まだまだ寒い季節の夜です。明かりに炬燵、火鉢・・・部屋の中に火を使うものがいっぱいあるではないですか」

「そうか、部屋の中に予め仕込んでおけばいいのか」

「そういうです事です。その場の全員が眠ってしまうと思われますので、少しでも怪しまれない様に酒席と致しましょう。それから、敵の忍びが天井裏や床下に忍び込んで、中の様子を観察しているでしょう。観察していた対象全員が眠りにつくと、酒に酔ったのか、何等かの方法で眠らされているのかを確認に必ず来ます。眠らせた後、徳川が確認に来るまでの間に、部屋の空気を入れ替える仕掛けが欲しいですね」

「そんな事ができるのでしょうか?」

「やらなければなりません。やらなければ、豊臣が薬を使って眠らせた、と発覚してしまいます。部屋の床下や天井は、敵味方の忍びがいますので、側面・壁に仕掛けましょう。眠らせる迄は目張りをして、燻された薬が籠り、目張りを外した瞬間に一気に煙が外に出る様な仕組みを作って下さい」

「わかりました。検討します」

「お願いします。それから、お尋ねしたいのですが、どうしてそのまま返すのですか?」

「それは、軍師殿が『殺すな』と・・・」

「確かに殺す必要はありません。ですが、悪戯で眉間に黒子をつけてみた、とか、寒いので風邪をひかない様に首に布を巻いておく、とか色々とあるでしょう」

「・・・恫喝する手段は色々あるという訳ですね」

「はい。この件について、何か意見はありませんか。なければ、次に議題に移ります」

僕の言葉で議論の主題は秀忠将軍の件に移った。

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