第十五話
夕刻より始まった豊臣の命運を決める会議は夜になっても続いていた。
「『病で死んだ』ものとして、何の病で亡くなったことにするのだ?」
「流行り病はまずい。民が動揺するだろう。ここは季節柄風邪をこじらせた為に亡くなったというので、いいのではないか?」
「それもそうだな」
「秀頼公には申し訳ない物言いではありますが、淀様においてはまだ利用価値がある。何しろ現将軍の義理の姉にあたりますので。ここで殊更徳川の仕業を言及しないのは、葬儀若しくは四十九日の席に二代将軍及びお初の方を引っ張り出したいからです」
「その席で、一体何が起こるのだ?」
「何が起こるかはわかりません。何も起こらないとしても、徳川方は神経戦で疲弊することは間違いないでしょう。・・・また、千姫様を餌にして、大御所を引っ張り出す事も不可能ではない、と考えております」
「何という恐ろしいことを・・・。秀頼様」
「構わぬ。千も武家の出だ。豊臣と徳川の暗闘など、元より百も承知よ」
豊臣秀頼の言葉で方針は決まった。更に秀頼は続けた。
「・・・通夜に、本葬、初七日、とやる事は色々多いだろ。大野兄弟、二人で事に当たって欲しい」
「御意」
「大坂から江戸までは遠い。駕籠に揺られて行くとなると、十日かそこらはかかるだろう。葬儀への参列など出来る訳がなう。将軍を、そして大御所を罠にかけるとしたら、四十九日だ。最悪、そこから戦になったとしても、後れを取らぬ様、準備を進めて欲しい」
秀頼は立ち上がり、奥にある部屋へ移った。詳細については七人の合議によって決めよ、という訳である。
七人は当主の期待に応えるべく、論議を続けるのだった。
さて、次は何をすべきなのだろうか?
僕は考えあぐねていた。
僕の思惑通り、淀の方は亡くなり、秀頼公が思いのまま采配を振るう事のできる体制は構築できつつある。しかし、この過程においてこの計画は幕府に筒抜けだったのだ。
大坂場に幕府の忍びが潜んでいるのはわかっている。しかし、そこで得られた情報の断片から、計画を喝破し、あろうことか僅かな人員で上書きして見せたのだ。こんな事が出来るのは、恐らく本多正純なのだろう。
彼が太刀打ちできない、と思うような壮大かつ精緻な構想が必要だ。
そんな事が出来るのだろうか?前世で普通の中学生であった僕に。
でもやるしかない。僕が生き延びる為に。そして、僕が殺した淀の方に誓った通り、秀頼公を守る為に。
豊臣方が勝つ為にやるべき事はシンプルだ。つまり、豊臣方の勢力を増やし、徳川方の戦力を削る事だ。
最初に思いつくのは、大阪城の浪人衆の増強。仕官口を求める浪人はまだうようよいるので、可能ではある。しかし、これは得策ではない。徳川方は各大名に動員を命じるだけで戦力の増強が出来るのだ。味方を増やす事は、何倍もの敵を増やす事になる。だからやるべきではない。
有効なのは、豊臣方の味方となって、徳川と戦ってくれる存在をつくる事だ。今の大坂城は裸城、攻められればひとたまりもないだろう。しかし、外部勢力と連携が取れればどうなるか。小勢力であっても、うまく立ち回れば、秀頼公を逃がす事が出来る筈だ。
つまり、別動隊の創設だ。
しかしそんな都合のいい存在があるだろうか。機内で、反徳川で、徳川方からノーマークとなっている存在・・・。
僕は侍従の一人に言った。
「十勇士(二人は出張中)の皆さんに、今夜集まる様連絡して下さい」
随分と狭いものだな。
僕と十勇士の八人が集まっている。ここは、元々五人までの少人数で、他人に聞かれるとまずい話をする場所である。九人とか十一人が集まる事は想定されていない。
「本日、父上にすべての事を話しました」
開口一番、僕は言った。
「・・・それで、殿は何と?」
「僕の話を信じてくれて、今までの事を渋々ですが了承されました。・・・何よりも息子さんに会えなくなった事を寂しく思われていました」
全員が俯く。雰囲気が一挙に暗くなる。
「本物の真田大助さんの事は、僕が一生背負う課題です。皆さんは気になさらないで下さい」
「・・・あまりご自分を責めない方がいいですよ」
佐助さんが優しく言ってくれた。
「ありがとうございます。今回の件で思い知りました。敵は、徳川は僕の思っていたよりも遥かに強い!
徳川を出し抜く事は難しい、ですがそれが出来ないと我等の勝利も、夢のまた夢です」
「それで、我等は次に何をやるのですか?」
「次の主戦場は恐らく淀の方の四十九日法要でしょう。そこに大御所や将軍を呼び寄せられるか、そこで戦いとなった時、我等は勝てるのか?」
「正に正念場となるでしょうね」
「うん。その後は雌雄を決する合戦になるでしょうね。四十九日の件は父上共相談して決めたいと思います。この件については、豊臣家全体で対応する事になります。この間に我らが為すべき事は・・・別動隊の創設です」
「大助さま、それはどういう事でしょうか?」
「うん、今から説明します。四十九日法要の裏で行われる戦いに勝つにしろ、敗けるにしろ、表側では合戦が行われる事は間違いありません。ここで我々は勝利を収める事が必要です。しかし、合戦の準備として堀とか出城を作ると、徳川から約定違反の指摘を受けるでしょう。では新たに浪人を雇って、戦力の増強を図るべきか、これも愚策です。何故なら徳川は我が軍の増強に応じて、大名に命令すればいいだけですから。大坂と連携して動く別動隊があれば、徳川方の裏をかけますし、万が一の場合の秀頼公の脱出路を作る事も出来ます」
「別動隊となりうるような、反徳川の勢力などあるのか?」
「ありません。今から作ることになります」
「ほう。それは面白そうな話じゃな。一体どこに作ろうというのか」
「京です。みやこに反徳川の勢力を作ります」




