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えっ、私が勇者になるんですか!?  作者: 立川好哉
第2部・3年生編
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293・ムムムたそ

 大胆不敵、天下無双、縦横無尽。そんな言葉の似合うルシャの苦手なことを見つけるのが難しくなっているこんにち。

 ドジっ子を披露していた体育でさえ今では高得点を獲るし、寝てばかりいた歴史や国語の授業は今ではシャッキリ起きてハキハキした受け答えをしている。


 この期末テストでもこれまでの勉強の成果(あるいはミーナから受けた影響)をいかんなく発揮して上機嫌だ。

「すごいねルシャは。ずっと成長してきて、ちゃんとこうやって目に見えるように現れてるんだ」

「お前のおかげだよ。この3年、お前からずっと知識を吸い取らせてもらった」

「ハハハ。いつも一緒にいたもんな」

「うん。いつも頭から電気信号を吸い出して私の頭に植え付けてたよ」

「こわ!」

 だから運動能力が少し上がったのか?と真面目に疑うことなく冗談と切り捨てたルートは、彼女の入学直後にさんざんバカにしていた成績が自分を上回るようなことになっているのではないかと危惧した。

「ルシャ、俺より早く終わっていたな」

「ああ。ちゃんと勉強したからな」

「してたっけ?俺が寝た後?」

「風呂上がりに教科書をクロエと読んでたんだ。穴埋め問題を出してもらって、そこで復習したのが見事にテストに出た」

「ほー、よかったな。もしかしたら俺を上回るかもな」

「お前はバカになってるもんな」

「なってねぇよ!俺だって勉強したから!」

 孤独な戦いには慣れている。




 そんな余裕たっぷりのルシャだったが、ノーラン先生の課題に唸ることになった。魔法実技を免除されて満点を貰ったルシャだが、クラスメートの学びになりそうな技術を見せてもらいたいと頼まれた。

「よしルシャ、巨大像でこの紐を解いてみろ」

 ノーランが紐を固結びにしてルシャに渡した。

「それは厳しいんじゃないかなぁ…」

「指の大きさを考えて像を出すんだ。できるだろ?」

「えー…」

 そんなに繊細にはできないと言いながらも2メートルくらいの魔法像を出してみた。

「あらかわいい」

 モデルがルシャなのでデカいルシャ像だ。おっぱいもお尻もその分デカい。ミーナが触ろうとするが、魔法なので柔らかくない。

「ミーナ邪魔」

「すみません」

 ルシャがデカルシャ像に紐を持たせて魔法を注ぎ込む。まずは自分の手と同じくらい自在に動かすところからだが、これがかなり難しい。

「おお、ルシャにも難しい魔法ってあるんだ」

「そりゃ指まで魔法を流し込んで、魔力量で指の動きを制御するんだよ?」

 瞬時に数値化できれば多少は楽だろうが、ルシャは数学が苦手だ。感覚を研ぎ澄ませて記憶するしかない。

「こうかな…」

 開始のフォームにすることすら難しい。なんとか結び目の近くを2本の指で摘まむことに成功すると、クラスメートから声援が届いた。

「すげぇ。これだけでもだいぶすげぇ」

「落としてないもんね」

「紐は別に浮かしてるの?」

「……」

「集中してらっしゃる」

「ムムム…」

「かわいい」

 真剣なルシャから声が漏れる。うなり声すらも癒しになるので、クラスメートは徐々に溶けていった。

「く…」

 ついに右手の指が結び目を掴み、結びを緩めようと引っ張り始めた。掴む力は抜群だし、引っ張る力も尋常ではない。但しここで問題が。

「ちぎったらやり直しな」

「んぐ」

 ルシャが力の要れ具合を繊細にした。手術のような繊細さを要求されていると感じたルシャは医者の凄さを思い知った。

「んー、悪いが時間切れだ。みんなを見る時間がなくなってしまう」

「ふー…まだまだ特訓すべきことがあるんですね。よく分かりました」

「良い機会だったろ?」

「ええ」

「偉そうなことを言ったが、俺にはできない。もはや指を動かすことすら」

「けど練習すればいつかできるようになるでしょう」

「だろうな。みんなも諦めるなよ。さあ、始めよう!」

 ここにきて新たなルシャちゃんを見ることができたのでやる気が増しているクラスメートは勢いよく魔法を放ってバルグシュを撃破しようとした。3年間も特訓していれば素人でもバルグシュを破る威力の魔法弾を放てるようになる。ノーランは満足した。



 体育の審判テストを無事に終えた放課後、ルシャはテストで得た発想を活かしてみようと思ってグラウンドに出た。フットボール部からボールを1球だけ借り、デカルシャ像を出した。

「おお」

「俺よりデカいルシャもいいね。本物ほどじゃないけど」

「これで悪口を言おうものなら頭を鷲掴みでキュッ、だ」

 捻り取られるということだろう。ルートは命を握られている気がして冷えた。

「違う。そうするために呼んだんじゃない。この巨大な私にフットボールをさせられたら、めちゃめちゃ繊細に扱えてると言えるんじゃないか。代理フットボールだ」

 巨大像によるフットボールは新たなエンタメになるか。それとも、人がやっているフットボールのほうが人気が出るか。それは分からない―みんなが巨大像を繊細に操れるようになるまでは。


 さて、ボールを蹴ることはできるかな?

「それ」

「おお」

 ド素人のキックならできた。トーキックで蹴られたボールが転がってゆく。部員が気付いて蹴り返してくれたが、それがちょうどデカルシャ像の胸のところに…


 ズモ


 残念ながらデカルシャ像は人間と同じ素材ではできていないので、ルシャが流し込んでいる魔力量に従って硬さが変わる。弾かれてしまうとまた拾いに行かねばならなくなるので咄嗟に柔らかくして吸収したが、胸に当たったときのような柔らかい感じではなかった。

「沈んだな」

「陥没だ」

「そこまで期待されるのは困るが、トラップのときにどうしようって課題が見つかった」

「そうだね。硬すぎると弾いちゃうね」

「触れる瞬間にちょっとだけ緩めるっていうのは繊細じゃないか?自分ならまだしも、像の感覚を完璧に自分に流し込まなきゃいけない」

 ルシャは陥没したデカルシャ像を戻してまたボールを蹴った。今度は球拾いを用意しておく。

「振る速さを変えたら遠くに飛ぶ?」

「…魔法でいくらでも速くできるから、ヤバいことになりかねない」

「ボールが破裂することもあるわけか。マジで難しいじゃん」

「わかっていただけたかな?あのときノーラン先生がいかに難しいことを私に課したか」

「そうだね。ルシャですら難しいってことは、すべての魔法使いの新たな進化形になるね」

「その開拓使は私でなければならないと思ってるよ」

 その使命感はある。だからこうして代理フットボールを上達させようとしている。デカルシャ像はマスコットキャラのようにずっと半笑いの表情でいるので面白い。

「ルートも出せよ。パス交換ができたら今日は終わりだ」

「頑張ってみよう。今頃先生も採点で忙しいだろうし、みんな頑張ろう」

 そこで各々が巨大像を出してフットボールをやろうとしたのだが、無表情のままぶつかり合ってワチャワチャしているのが面白くて予定外に長く遊んでしまった。デカいダテが相対的にちっちゃいボールを追って動いているのは、ゆるキャラ大運動会のようで面白かったとアリレザ先生も言った。



 それからダテの面々はルシャに”ムムム”と言わせたいがために難しい課題を与えようとした。ミーナは難しい知恵の輪を、リオンは謎の箱状の物体を、ラークは針金でできた球体のようなものを渡してきたので、ルシャは片っ端からやることにした。その結果、頭が少し良くなった。

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