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えっ、私が勇者になるんですか!?  作者: 立川好哉
第2部・3年生編
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294・尻がかゆいルシャ

 大手化粧品メーカーが顧客1000人に訊いた冬の悩みランキングを公開した。これは美容に興味のある多くの国民の注意を引き、影響力の強いルシャをも引きつけた。

「1位が肌の乾燥か…」

「乾燥するよね。洗濯とか掃除とかで頻繁に手を洗うことになると特にね…」

 家事を分担するルートがそう言った。彼はルシャから良く見られるために手の先まで美しさに気を遣っている。その方法はルシャの保湿クリームを借りることで、今は2人の手から同じ匂いがする。

「2人で使うとなくなる速さが倍になるけど、高いやつを半額で入手できるという利益がある」

 100グラムのチューブで1200セリカもするのは希少な素材を使っているからだそうだ。保湿効果がかなり高くて匂いもいいので愛用している。ちなみにミーナはそれのさらに高いやつを使っている。

「手くらいならいいんだけどさ、全身になるとこれだと一瞬でなくなるから、全身用は安いのを使ってるよ。無香料のやつ」

「塗りたくるよな。風呂上がりにべっちゃべちゃに塗る」

「浸透しないやつだとヤバいね」

「もちろん浸透するやつだよ。全身ベタベタで寝られるはずがない」

「そうよね」

 そんなルシャだが、塗りが甘かったのか、摩擦のせいなのか、尻が痒い。




 テスト返却の時間中、ルシャがやけに座り直したり椅子に尻を擦りつけたりするので、気を遣ったプリムラがトイレ休憩を挟んだ。そこでルシャは応急処置として高いハンドクリームを尻に塗った。しかしこれは保湿をするものであって痒みを抑えるものではないため、結局痒いのだった。

「ルシャたそ今日ずっと尻を気にしてたね」

「マジ痒い。周りに人がいなけりゃ手を突っ込んでボリボリ掻いたよ」

「やめときな。皮膚が傷むよ」

「痣になったら嫌よね」

「誰か薬用のかゆみ止め入ってるクリーム持ってないの?」

「…家だなぁ」

「早く帰ろう」

 尻を気にしながら家に帰ったルシャは、すぐに薬箱を漁ってかゆみ止めを見つけた。

「うー痒い」

 ルートがいるのに全く気にせず尻を晒し、パンツのゴムで擦れがちなところに塗った。

「あぁ気持ちいい~」

「大変でしたね…」

「クロエは?パンツのゴムの当たってるところが痒くない?」

「摩擦を減らすためにインゴムにしました」

「え?お子様ぱんちゅにしたの?」

「体育がないので誰にも見られません」

「私もそうするかぁ」

 インゴムが子供に愛されている理由は擦れにくく跡ができにくいからだと言われている。肌に優しいのは事実なので、摩擦に弱くなっている冬だけでも穿こうかと思った。

 お子様ぱんちゅ大流行の予感!




 風呂上がりにもクリームを塗ろうと思ったルシャは、手の届かないところにも塗りたかったのでクロエを呼んだ。服を脱いで布団の上に裸で寝そべるルシャに、サンオイルを塗るかのようにクロエがベターッと塗ってゆく。

「いいねぇぇ」

「ルシャさんはお尻が乾燥しがちですね」

「そうなんだよね。なんでだろ。体質?」

「肌の保水力が低いんでしょうか。食事で少し改善するという話を聞いたので、もうちょっと調べてみます…それか、パンツがきついんじゃない?」

「かもしれないねぇ。だからこれからゆったりしたのを穿くよ」

 穿き古して緩くなっているのならさほど擦れないだろう。だらしなく糸のほつれたパンツを穿いているのに構うことなく尻を守ることに徹したためか、夜は痒みに起こされることがなかった。


 翌朝も寒くて乾燥している空気が皮膚を撫でる。

「出る前に塗るか。これも持っていこう」

 今年の学校は今日で終わりだ。明日から冬休みに入るので、放課後ルシャの家で会議を行う予定だ。アイが泊まる予定なので、昨日のうちに寝床を作ってある。そんなアイは保湿をしているのだろうか。訊いてみた。



 アイは高そうなクリームを持っていて、これが乾燥に対して無敵の皮膚を作ると自慢した。

「なんかスゴいやつらしいよ。お父さんが職場の人から教わったんだって」

「ほう。見たことないな…西の会社か?」

「王都の店には売ってるよ」

「ちょっと貰っていい?」

 ルシャは乾燥しがちで摩擦しがちな肘がカサカサしているので塗ってみた。ほんのり良い香りがするし、浸透している感じがする。

「私って乾燥に弱いみたいで、指とかすぐ割れるんだよね」

 絆創膏を貼ってあるところは指の関節で、割れて赤くなっているという。

「痛いんだよね。関節だからよく動くし」

「そうなの。だから手袋して洗い物してる」

 家事は基本的にすべてアイが担当するので、冬は手が荒れがちだ。頑張って保湿していても割れてしまうときがあるので、治療剤も持っている。

「尻がさぁ、パリパリにならん?」

「ボディクリーム塗ってる」

「塗っててもなるんだよ」

「それは…摩擦かな?」

「やっぱりパンツなのかな」

「だと思うよ。モコモコしてるの穿けば?」

「うーん…子供用のやつをこのあと買いに行こうと思ったんだよね」

「そうするといいよ。私も買ったもん。齢不相応かもしれないけど、サイズが合うから憚りなく買った」

「そうするか。じゃあ、ルートたちと先に家に行っててくれる?」

「私も行きたいからルートに先に帰っててもらおう」

 学校でもパンツの話をするから周りはドキドキしている。ルシャはどんなパンツを買うのか想像すると、先生が来るまで止まらなくなりがちだ。



 無事に終業式を終えて解散となったので、ダテは冬休みの過ごし方会議のためにルシャの家へ向かった。ルシャとアイは衣料品店に寄ってから帰るので、みんなにはその間に昼ご飯を食べていてもらう。

「部屋を使うなら今のうちだからなルート」

「もうクローゼットで過ごす準備ができた。帰りは1時くらい?」

「そうなるようにする」


 店に入ると大人向けのに目もくれずに子供向けの下着売り場に行った。すると乾燥対策特集をやっていて、摩擦のことを考えて設計された下着が並んでいた。

「今の時代はいろんな素材があるからね」

「いいね。サイズも160まであるよ」

「これなら私も穿けそうだな。これ可愛いね」

「ルシャに似合いそうだよ」

 青地に星柄のもこもこパンツだ。サイズはゆったりめでルシャの太い脚も通る。しかし隣のオレンジ色のほうが見た目が暖かそうだから、それも買うことにした。

「金があるうちは何でも買えばいいんだ。直感を信じろ」

「そうだね。大した額じゃないしね。私はレギンスを買おうかな」

 タイツよりレギンス派というアイは子供サイズのをいくつか手に取った。大差ないと思いきや、ゴムのところがけっこう違う。

 ルートと約束したとおりに1時に戻れるように早めに買い物を済ませたが、買ったものは紙袋1つにいっぱいになった。

「これで完璧だろう。そうじゃなかったらこの冬を終わらせる」

「そのくらいの対策はしたよね。ルシャのおしりが常に潤っているように願うよ」

 ぷるんぷるんであるべき尻がカサカサであってはならないので、この新しいパンツと保湿クリームで冬の乾燥を乗り越える。


 果たしてダテの尻は荒れずに綺麗なままでいられるのだろうか。定期的にチェックするということなので、気を抜けない。

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