第17話
「円! どこだ、おい! 返事しろ!!」
俺は、見慣れた悪友の姿を探して夜の森の中を走る。
先輩に説明しながら、視界の悪い森の中を全力で走りまわって何度も転びかけたが、気にしている余裕などなかった。
幸いにも円はすぐに見つかった。
暗闇の中で懐中電灯の光が揺れている。
無事だった。
幽霊なんかじゃない。
近づいていけば、ちゃんと円はそこにいた。
「未来? ちょうど良かったわ、見なさい! 残りの石ころなら、このアタシが見つけてあげたわよ」
円はそう言って、最後の石を掲げて誇らしそうに笑う。
石探しに夢中になって、そんなに遠くまで行くなよ。
驚いたし、死ぬほど不安になっただろうが。
「お前な、人の気も知らないで……」
「何唐突に呆れてんのよ。未来のくせに、生意気ね。そういうのはアタシの専売特許でしょ」
いつもやられてるのをやり返したんだよ。
なんて、そんな軽口も今は出てこない。
だが、目的の物が見つかった様だ。
時間はもうあまりないが、何とか間に合いそうでよかった。
そう思った。
しかし、途端に俺は小さな物音を聞いてしまう。
それは円の背後から聞こえてきたものだ。
電灯の光が届かない、暗がりへと向ける。
分かりにくかったがそこに何かがいた。
暗闇にとけるように、そうと注意してみなけれな気が付かないような何かが。
彼女の背後には……。
「……っ」
あの巻き戻りの世界で、円を殺した男の姿があった。
その手には凶器がある。
円は、気が付いてない。
こういう時だけ、お前は……。
円が倒れるいつかの光景が頭をよぎった。
「円! 後ろだ!」
「え?」
俺の警告に、円が振り返るが、遅い。
相手はもう凶器を振りかぶっていた。
このままだと円が。
間に合わない。
嘘だ。
ここまできて、また。
俺は誰かを失うのか……?
絶叫が喉元まで出かかった。
「円!」
だが、俺の後方を走っていた先輩が叫んで何かを投げた。
とっさの機転だったのだろう。
それは小さな石だった。
牽制するに投げられた石は、円の背後にいる男にはあたらなかった。
けれど、時間を稼ぐのには十分に役に立った。
「このっ! ストーカー野郎!! 反省しなさい!!」
振り向きざまに放った円の回し蹴りが綺麗にヒットして、男を吹っ飛ばした。
俺は走って、起き上がろうとするそいつを組み伏せる。
相手は渾身の力で暴れてくれたが、俺だって手を抜けない。
拳で何発かやられたが、こっちだって仲間が危険な目にあいそうになったのだから、黙っていられるはずがなかった。
頭突きをかまして、相手に反撃させないようにする。
「いい加減にしろ、お前らは邪魔してくるな! ここまで来たのに、お前なんかに無駄にされてたまるかっ!」
そして、目いっぱい上体をそらして相手の顎めがけて綺麗に頭突きを見舞ってやると、プツリと抵抗が病んだ。
相手の男は意識を失くしたらしく、糸が切れた人間のようにぐったりした。
「円、無事か!」
「桐谷とアンタのおかげで、それより時間がないわ」
離れた所にいる円は自分の成すべき事をちゃんとこなしていたようだ。
ケンカなら俺に任せればいいと思ってくれていたのか、どうだか分からないがそれで正解だ。
円の無事はちゃんと確かめたかったが、そう悠長にもしてらえない。
円は、地面にしゃがんで、集めた石と今までに保管していた石を並べる。
七つあった。
ちょうどだ。
これで全部そろったのだ。
「頼む、茉莉を助けてくれ」
これで何も起きなかったら恨むぞ。
そう思い、すがるような視線を向け続ける。
しかし、奇跡は起きた。
夜の地面に並べられた石はややあって、光輝いた。
意地悪な顔ばかり見せられてきた運命の女神も今だけは、俺達の味方をしてくれたようだ。
奇跡は、もう一度だけ俺達に微笑んでくれたようだ。
優しく温かみのある光がその場に満ち溢れて、光の筋おなり空にのぼる。
吸い込まれそうな暗闇の天井をふわりふらりと待ったののち、やがて指針をえたように、どこかを目指して移動し始めた。
光はそうして視界と消えていく。
ふと人の気配を感じて周囲を見れば、黒い影の様な物と目が合ったような気がした。
一瞬過ぎて、見間違いかと思ったがあれは災だった。
災は、俺みたいな人間には理解できそうにない存だったが、関わった人間の末路を見届けてやるくらいの責任感があったらしい。
「……っ、はぁぁぁぁ」
これまでに背負って来た不安や緊張感が一気に押し寄せて来て、思わずその場に座り込んでしまった。
輝く光は綺麗だった。
まるで、満点の星のように瞬いていた。
その地面に視線を落とすと、並べた場所からは跡形もなく石が消えてしまっていた。




