第12話
これ以上こんな所で無駄話をしている場合ではなくなった。
とりあえず早急に茉莉を病院で診てもらわなければ。
だから、こんな辛気臭い場所からはさっさと退去したかったのだが、部屋の前で伸びていたはずの男たちが姿を消していた時に、その可能性に気づくべきだった。
帰り道が分からない。
記憶していた道順と目の前の道が違うのだ。
なぜか下水道の通路が変わっていた。
「気のせいなんかじゃない、どうなってるんだ」
「おかしいわね。たぶん意図的に変えられてるわ。通路の分岐の数が合わないもの」
「ああ、そのようだね」
信じられないという思いが強かったが、俺より頭の切れる二人がこの状況で嘘をつくはずがない。
と言う事は、やはりそうなのだ。
しかしそれでは困る。
通路が分からなかったら、どうやって戻ればいいのか分からないではないか。
「ここまで来て……」
歩いていればいつかは外に出られるだろうが、時間をかけてしまうのがもどかしい。
肝心の茉莉を見つけられたと言うのに、こんな所で足止めをくらう事になるとは。
逃げ足だけはしっかりしてて早いとか、ネズミかあいつらは。
「ん、そうだ。未来鍵をほしいのだが」
「鍵、ですか」
「ああ」
何かを思いついたらしい先輩が、俺が渡したカギを見て得心がいったように頷いた。
そして、行き止まりにしか見えない壁をよく調べて、ある部分を示した。
「よく見てみるといい、ここにカギ穴がある。おそらく開閉式の扉があるのだ。意図的にそれらを複数作っておいて、通路を作り替えたんだろうね」
「なら、鍵を使えば先に進めるのね」
「そうなるだろう」
そんな事に気づくなんて。
先輩のおかげで状況の悪さに光がさしてきた。
言われた通りの場所を調べてみると、たしかにカギ穴がそこにはあった。
漫画の秘密基地じゃあるまいし、こんな事になってるなんて誰が想像できるんだ。
茉莉当たりなら、中二病の影響で難なく思いつきそうだったが。
今は俺が抱えている腕のなかで、辛そうに眠っているだけだった。
とにかく、先輩がカギをあけて、目の前で道を塞いでいた扉が開いた。
同時に、どこからか水が流れ出てくるような気配。
まさかとは思うが、そのまさかだった。
携帯で時刻を確認すると、ちょうど巻き戻りの世界で何度か降り込められた夕立の時間だった。
流されると困るどころじゃないぞ。
「これは、少しまずい……かな」
「え、ちょっとヤバいんじゃないの、このまま水が増えたりしたら」
焦ったように円が足元の水を見て言うが、先輩はその発言をすぐに否定してみせた。
「いや大丈夫だよ、夕立と言ったぐらいだから、雨は少量だ。だが、雨が降ると、必然的に交通機関を頼る人間が増える。茉莉を病院に送り届けるのが遅くなってしまうだろうね」
つまり想像よりも、目的地に向かうのに時間がかかってしまうと言う事だ。
例えばそれなりに金銭面で余裕のある先輩がタクシーを呼んで利用しようと考えたとしても、すぐに捕まらない可能性があるのだ。
「急いだ方が良いわよね、茉莉ちゃんの為にも」
茉莉の状態がどれくらいなのか分からないが、悠長にしてられない事だけは確かだ。
悪天候の地味な影響に困らされながらも、俺達は急いで地下を進んで行った。
地下から出たのは入ってから1時間後くらいだった。
雨はやんでいた。




