第11話
一つ。
二つ。
三つ目で、扉が開いた。
他の扉なんて見当たらないのに、なぜか鍵束の中に他の場所の鍵らしきものが交ざっていたのが少し気になったが、考えるのは後だ。
「ほら、開いたわ。壊す前に、まず鍵探そうとしなさいよ。順序が逆でしょう?」
円の呆れ交じりの言葉にも返さず、俺は部屋の中に入る。
すると、ひんやりとした冷気を伝えてくる鉄の床に、茉莉が倒れていた。
無事だったという安堵と、何かあったのかという不安が同時に襲って来る。
「茉莉!! 大丈夫か!?」
俺は慌てて、茉莉を抱え起こす。
「……みらい? あれ、何で未来がここにいるのー?」
受け答えはちゃんとしてくれるようだ。
いつも見慣れていた大きな瞳がこちらを見つめ返してきた。
けど、触れて異常がすぐに分かった。
茉莉の体は熱かったのだ。どうやら、熱が出ているようだ。
部屋の中は鋼鉄でつくられていて、寒い。
1月の季節の冷え込みもあってか、今来たばかりの俺達でも相当寒く感じる。
こんな所に昨日からずっと閉じ込められているのだとしたら、熱ぐらい出してもおかしくはないだろう。
環境が変わった事で体調を崩してしまうというのは、よくある話だ。
茉莉にそんな繊細なところがあるのは意外だったが、状況が状況だし無理がないのかもしれない。
「むぅ、あれー? お布団は?」
茉莉は不思議そうに緩慢な動作でキョロキョロと周囲を見回している。
どうやら、こんな状況なのにこいつは寝ぼけてるらしい。
「こんな寝室があってたまるか、なあ……大丈夫か? あいつらに変な事されてないよな」
「んー、あたしはたぶん大丈夫だよー。えっちな事も、十八きん展開もなかったです」
たぶんと大丈夫は一緒に並べる言葉じゃないだろ。
もし、茉莉が言うようなそんな事になってたら、俺はうっかり人を殺してしまいまねないが。
見た所、特に乱暴に扱われたわけじゃないと言う事は分かった。
冷たい部屋に放置される事が、丁寧な扱いに分類されるかどうかは、微妙な所だが。
ともあれ、茉莉には冗談を言うだけの気力は残っていたらしい。
寝ぼけまなこの茉莉を抱えて、部屋から出る。
「あら、茉莉ちゃんもう眠っちゃったのね。安心したのかしら」
「本当だ。こいつの心臓いったいどうなってるんだ」
抱えられた茉莉は熱があってしんどいのか、すぐにまた眠ってしまった。
ある意味大物だな、この幼なじみは。
だが、病気ならきちんと病院に見せた方がいいのかもしれない。
円と一緒に、茉莉の状態を見ていると、そこに先輩が訝しそうな声で質問してきた。
「茉莉は熱があるように見えるが、発熱してるのかい?」
「え、はい。ちょっと体温がいつもより高いみたいです」
「少し、見せてもらえないだろうか」
「いいですけど……」
俺は、抱えている茉莉を、先輩に見えやすいようにする。
先輩は、茉莉の熱をはかったり、呼吸を確かめたりするのだが、ややあって、そのあと……。
「……うわっ、ちょ……」
「こらっ、未来。視線そらしなさい!」
「いてて。おい、首ひねるな!」
先輩とはそれなりのつきあいがあるが、さすがにそんな事されたら驚く。
先輩は何かを考えながら茉莉の服をところどころめくり上げたりしたのだ。
これで動揺するなと言う方がおかしい。
茉莉は俺にとって妹みたいなものだけど、今ではいい年だし、そういうのはまずい。
上着がめくられたので視線をそらそうとしていたのが、途中で円に思いっきり顔の向きをかえられて、首のすじがやられた。
この件に関しては俺は悪くないだろ。
俺と円が静かなるにらみ合いをしていると、先輩が不穏な言葉を述べて来た
「ふむ、これは少々まずい事になったかもしれないな」
「先輩?」
「どうしたのよ、桐谷」
彼女の声は固い。
まるで信じたくない何かに、気が付いてしまってとでも言わんばかりだ。
「茉莉の服の下に注射の後があった」
「注射?」
何でそんなものが、茉莉の肌に?
俺も茉莉も、子供の頃に予防接種みたいなので、注射自体はした事がある。だが、こんな状況でそんな昔のことについて先輩が言うはずがないし、わざわざ口に出すはずがない。
という事は最近の注射痕の事なのだろう。
「ちょっと、まさかそれって」
俺より一足早く結論にたどりついた円が信じられないと言ったような声を上げる。
「おい、どういう事なんだ。茉莉は大丈夫なんじゃないのか!?」
俺は、その可能性に気が尽きたくないあまりに、円に説明を押し付けてしまう。
「そんなの、そんなの決まってるじゃない。連中は茉莉ちゃんを実験台にしたのよ」
円は視線を落としながら、それでも俺に話してくれる。
考えたくもなかった可能性について。
そんな彼女の途切れた言葉の後を引き継いだのは、先輩だ。
「他人が開発した成果を盗むのに飽き足らず、彼女をリスクのある薬の被験者にしたのだろう」




