第10話
俺達は足元に気をつけながら、マンホールにかかっていた梯子を伝って、地下へと降りていった。
狭い空間だったが、人が歩けるくらいのスペースはあったようだ。
とりあえず女性に前を歩かせるわけにはいかないので俺が一先頭を歩きながら、周囲を探っていく。
内部は薄暗く良く見えなかったので、そこらの店で購入した懐中電灯で出らしながら、道を覚えつつ進んで行く。
とりあえず内部は、懸念していたほど汚れているわけでも、臭いがきついわけでもなかった。
どちらかと言えば、むしろ清潔そうに見える。
そんな内部の空間をみた先輩が、とりあえず分かった事を述べていく。
「下水……ではないようだね。とすると私達が考えているような用途で使われているわけではなく、初めから隠れ家として使う為に偽装していたのだろう」
「こんな事にお金を使うくらいなら、もっと有効な事に使いなさいよね」
「それが出来ないから、こうなってるんだろうさ」
背後にいるので分からないが、円はさぞ飽きれた顔をしていることだろう。
先輩みたいな人がいる一方で、平気で人を傷つけられる人間もいる。
幸せだった人間がある日、そういう奴等に利用されたり貶められたりもするのだ。
世の中って色々と不公平だよな。
円だって、色々人の頼み事を引き受けていたりするけど、そればつまりそれだけ困ってる人が多いという事だ。
円は曲がった事が嫌いで、両親に似てか正義感持つ強い方だから、いくら困っていても悪い奴なんかに手を貸したりはしない。
すると必然的に円が忙しくなってくると、それはつまり、普通の奴とか良い奴がそれなりに大勢困っている時でもあって……。
基地の雰囲気が悪くなる前は、俺達とかもたまにその手伝いに駆り出されたりとかしたのだ。
かなりいい迷惑だったが。
この世のどうしようもない部分に目を向けたりなんかしていると、ある程度進んだ時に、円が警戒を促してきた。
「しっ、静かに! 人の話し声がするわ。多分この先に誰かいるわね」
俺には何も聞こえなかったが、円には分かったらしい。
できるだけ足音を殺して、無言で先へと進んでいく。
やがて円が言っていた声とやらが、俺達にも分かる様になってきた。
曲がり角になっている区画の向こうから話し声が聞こえて来る。
「こんな狭苦しいところに押し込められて、人質の見張りなんて退屈だよ、まったく」
「ああ、俺達も向こうみたいに派手な仕事がしたかったな。見張りなんかじゃなくて」
「そういや、休み取ったあいつどうしたんだ?」
「さあ? 何でも夢中になってるかわいい子がいるとか。相手の子は可哀想だよな、あいつ粘着だし」
二人分の男の声だ。
警戒心とかはまるで感じられない。
油断しきっている様だ。
とりあえずは、このただの関係ない作業員というわけではなさそうで、安心した。
きつめに殴っても良心は痛まなくてすみそうだ。
俺と円は視線を交わして、タイミングを計った。
そして、同時に角から飛び出して、相手が反撃する時間を与える隙を与えずに、初撃で鎮める。
相手は、こちらを見て驚いたまま、何もできずにその場に倒れ伏した。
まったく役に立たなかった見張りの男たちだが、同情する気は起きなかった。
さっそくそいつらが見張っていた扉を開けようとするが、鍵がかかっていて開く気配がない。
俺は急く感情のままに中に問いかける。
「茉莉! そこにいるのか!?」
「……」
返事は聞こえない。
ひょっとして誰もいないのだろうか。
いや、そんなはずはない。
こんな所に見張りを立てて置いて、何もない部屋を見張るなんて事あるわけがないだろう。
一瞬、自分達の考えが間違っていたのではないかと思いかけたが……。
「み、らい……?」
注意していないと聞き取れないようなそんなか細い声が聞こえて来て、確信が深まった。
茉莉の声だ。
俺が聞き間違えるはずがない。
「茉莉! そこにいるんだな、大丈夫か!」
「う……」
けど、いつもならこっちが聞いてもいないような事まで元気に話してくれる茉莉の声は、今は途切れ途切れにしか聞こえなくて、注意して聞いていないと聞き逃しそうだった。
何かあったのかと思って、固く閉じたままの扉を考え無しにぶっ壊そうとした。
というか、二、三回殴った。
だが、そんなので頑丈な扉が壊れるわけもなく、俺は拳を痛め打だけだった。
そんな俺を円が荒っぽく脇へと追いやった。
「猪突猛進するにも場合を考えなさいよ。ほら未来、どきなさい」
円はいつの間にか手にしていた鍵束の一つを、ドアのカギ穴に差し込んで回して行った。
俺が話している間に、床で伸びた見張りの懐を探っていたのだろう。




