第8話
それから、隣町へ移動した。
俺達は、一時間もかからないくらいの時間をかけ、地図のヒントが示した場所へとやってきた。
視線の先には目当ての工場があるが、表面上は至って普通の工場に見えた。
誘拐事件に加担しているようには見えないし、時折り建物から出てくる作業員はごく普通の人間に見える。
「どうするのよこれから」
「とりあえずNECOと共に送られてきたもう一つのヒントについて調べてみようか」
確か、メールにあったのは交通標識だったか。
そこら辺に立っている標識を見ていくが、取り立てて変わった物は見つからない。
たぶん車に乗せられてる時かなんかにみたものを寄越したのだろうと思うが、そんなもの町中に嫌と言う程溢れかえっている。
あえてメールにするほどのヒントなのだろうか。
「……」
「未来、焦ったって仕方がないわ。落ち着きなさいよ」
無言で罪もない電柱を睨みつけていたら、円にそんな事を言われた。
後に言われる事だが、その時の俺は唐突に意味もなく頭突きでもかましそうな、凶悪顔だったとか何とか。
血の気が多い自覚はあるが、さすがに無駄に頭突きしだすほど突拍子のない人間じゃない。
刻一刻と過ぎていく時間に、俺は自分の無力さが腹立たしくなる。
先輩も円も暗号解読に知恵を発揮してくれてるのに、普段勉強してないし細かい事を考えるのが苦手な俺の脳みそでは、全く役に立てない。
これじゃあ、円辺りに、適当なところにある壁か柱かなんかに頭突きでも釜思想なんて言われるわけだ。
視線で電柱に穴があくわけでもないのに、そんな意味もなく見つけていたら嫌な事を主出してしまった。
基地を襲撃された世界で、死んだ先輩を置き去りにしてしまった事とか、その時の責めるような円の声を思い出してしまったからだ。
俺はもう誰かがかけるのは嫌だ。
誰かが死ぬのなんて、いなくなる場面なんて御免だった。
遺される方だって辛いんだ。
これからの人生の長さを考えると、大切な人がいない時間の方が長い。
そんな絶望、誰だって背負いたくないだろう。
そんな事を考えて知らず鬱になっている俺とは違って、先輩はあくまでも冷静だったらしい。
周囲に視線を向けて、どこかにヒントがないがずっと考えていた様だ。
「ひょっとして、標識ではなく標識の近くにある物、とかだろうか。例えばマンホールとか……かな?」
先輩はヒントを求めて周囲を観察した後に、近くにあるマンホールに気が付いて興味深く眺めているようだった。
その言葉に応じる円は懐疑的な態度だ。
「マンホールぅ? 地下に隠れるとか、あるかしら? アニメや映画じゃあるまいし」
「いや、これがなかなか馬鹿にできない。欲に正直な人達は、時折私の想像の遥か上を行くものだからね」
先輩は、会社のアドバイザーとして仕事をしてきた時の苦労の事を言っているのだろうか。
俺達とそう変わらない年のはずなのに、今までに色々と苦労しているようだ。
俺はあの繰り返しの世界で、人間の表面だけを見ただけじゃ分からない事が山ほどあると知った。普段は適当に生きてそうな円ですら、細かな気配りを回しているのだという事も。
俺一人だけが不幸な目に遭ってるわけじゃない。
皆それぞれ辛いものや大変な事を抱えて生きてるんだ。
けれど、そんな境遇にあっても、人に優しくする事は出来る。
人の優しさを忘れずにいられる。
人から向けらえる優しさの価値も、忘れずにいられるはずなんだ。
目を向けさえすれば、それは確かにそこにあるのだから。
目を、向けさえすれば。
俺はそれが分かってなかったから、何度も同じ一日を繰り返す羽目になったのだろう。
先輩や円には本当に色々と世話になった、あの世界でもこの世界でも。
これが終わったら、そんな彼女達にしっかり恩返ししなくてはいけないだろう。
いつか皆で揃って行ったように、次に祭りに行く機会があったら、財布がすっからかんになる覚悟で臨むべきだろうな。
いけたらいいよな、また皆で。




