第3話
取り乱してるわけにはいかない、何が起こっているのか、起ころうとしているのか、考えないと。
円と先輩に励まされてる俺が落ち着くんを見て、頭上を見ていた織香が話しかけて来た。
「君、円からこの森に不審者がやってくるって話どこかの世界で聞いた事なかったかい?」
そういえばどこかの世界でそんな話を聞いた事があったな。
確か森にいる俺を探しに来てくれた円が言っていた事だ。
織香は俺の反応を見ながら、懐から小さな石を出して見せた。
それは、円が集めていたのと同じような形の石だった。
確かこの森には、石を集めると願いが叶うと言う話があったな。
それが一体なんなんだ?
「この森で目撃される不審者。実はそれ、ボクの家族なのだよ」
「は?」
「おっと、話がちょっと飛んでしまったね。申し訳ない。順を追って説明するよ」
最初からそうしてくれ。
いちいちこっちに分かりにくいように話をしてくるな。わざとなのか。
知識を持った奴は、頼んでもないのによく喋るし、話が遠回り過ぎるから困るんだ。
「君が知っている通り、ボクは病弱だ」
異論は色々あったが、口を挟まない事にした。
「調子のいい時はそれほどでもないのだけど、悪い時は結構大変でね。もうベッドから起き上がれないような体になってしまうのだよ」
だとしたら何なんだ。
答えを急かす俺の内心に気が付いたのか、織香は人差し指を立てて揺らしながら、続きを説明してくる。
「せっかちだなぁ。そんな男は嫌われてしまうよ。まだ分からないのかい? この森には願いを叶える石がある」
「まさか……」
「そういう事さ」
つまり織香達は、今までこの森になんどもやってきて病気を治すために石を集めていたんだろう。
それで、円の父親たちに目撃されて不審者認定されてしまったというわけだ。
だが、この森にあるだろう石はあと一つしかない。
残りは全て円が持っている。
もし、その石も見つけているのだとしたら、俺達が持っていると考えるのではないだろうか。
織香の目的はそれが必要で探しにきた、とかか?
いやそうだとしたら、こんな風にのんびり会話をしてはいられないはずだ。
目の前にいる彼女は、ため息まじりの息を吐いた。
「君、いま野蛮な事考えてなかったかい? 石を奪うとか何とか」
別にそんな事は考えてない。
茉莉の友人がそんな人間であるわけないのは分かってるからな。
「ならいいんだけどね。ボクたちの目的は別だよ」
「回りくどい言い方をするな」
いちいちわき道にそれなきゃ話ができないのか、コイツは。
もっと単刀直入に会話しろ。
そんな俺の気持ちが伝わったのかどうか織香はようやく本題に入るようだった。
そして、彼女は俺に向かって……。
「まったく、茉莉ちゃんの苦労が瞼の裏に浮かぶようだ。さて、それならばお望みに応えさせてもらうよ、もうあまり時間がないからね。驚かないでくれたまえ。何と実は、ボクの寿命は1月10日までだったのだよ」
「は?」
そんな事を言った。
彼女はとりあえず、と円や先輩たちのいる方向を視線で示す。
視線を追えば二人の体は消えかけていた。
「円、先輩!」
俺と織香の体には何も起こっていないと言うのに。
「ボクと君だけがここに最後までいられるのは、僕達が本物で、本当の世界で死にかけているからさ。この世界の崩壊に巻き込まれて一緒に消えてしまう可能性がある。けどこの人達は違う。だからあるべき場所へ帰るんだよ」
円と先輩は戸惑う俺の方を見て、それぞれ声をかけてくれた。
「色々と混乱してるかもしれないけど、アンタのやるべき事は一つ。シンプルに考えればいいのよ。茉莉ちゃんを絶対に助けなさい」
「ああ、そうだ。君は大切な事を見失わずにいればそれでいい。大切な答えにさえたどりつければいいさ。私にはらしくない言葉だが、君にはぴったりだろう?」
「俺……」
二人は一体なんだったのか、俺には判断が付かない。
色々な事があり過ぎて……。
けど、たとえ本物でなくとも二人が俺を助けてくれた事は事実だ。
「円、助かった。先輩もありがとうございました」
二人の姿が消える前に、そう感謝の言葉を述べておいた。
空の崩壊が激しくなってきた。
本物だと思っていた仮初のこの世界が終わる。
円と先輩の消失を見届けた後で、織香があらためて俺に声をかけてきた。
「今から大事な事を話そう。ボクの言葉をよーく聞く様に。この世界は災によってつくられた。けれど、君が罪を認めたからもうこの場所の役目は終わりになったのだよ。だから、この世界が終わっても心中せずにはすみそうだね。元の世界に戻ったら、昼の12時頃にはボクの寿命が尽きる。だから罪在の森に行ってちゃんと石を回収するんだ。持ち主が死ねば、石は元の場所に戻るらしいからね。忘れないように」
そういえば、ある世界では七つの石を全部集めた事があった。
織香が言った事が正しいなら、あれは、まさか……
俺の考えが分かったかのように織香は薄く笑みを浮かべた。
「そういう意味さ。力を早く切っただけのこと。いいかい? もう時間がない。本当に大変なのは1月11日だ。君は何としてもその日を超えて見せろ。そうじゃなきゃ許さない。ボクの命を燃やしておいて、無駄な事なんかに使わないでおくれよ」
理解が追いつかないんだ。
頼むからちょっと待ってくれ。
大人しく聞いてるが、半分も分かっちゃいないんだぞこっちは。
元の世界って結局なんなんだ。
目覚めるってどういう事だ。
けれど、俺の反論を封じ込めるように織香は燃える様な瞳をこちらにぶつけてくる。
目にし続けていればこちらが燃え尽きてしまいそうな、そんな苛烈な遺志を秘めた瞳だった。
「ボクは友達として茉莉ちゃんの事が大好きだ。親友だと思ってる。彼女は、退屈していた僕に、色んな世界を教えてくれたんだ。だから幸せになって欲しい」
織香は、こちらに歩み寄って俺の肩を掴んだ。
女性の手とは思えない、力で。
「頼むよ、ノーアンサ―」
そしてその瞬間。
世界がブラックアウトした。




