第2話
俺は、永遠に続くかと思われた時のループからぬけだした。
終わらない1月10日は過ぎ去り、新しい時間がやってくる。
だけど、俺は茉莉の事を諦めたわけじゃない。
ここで満足しておけ、とそう考える奴もいるかもしれないけど、俺にはやっぱりあいつが必要なんだ。
先輩も円も悲しませるような事はもうしない。
今ある物から目をそらしたりはしない。
そのうえで、俺は失われたものを取り戻しにいく。
やっぱりあいつがいないと寂しいからな。
具体的な方法なんてまだ考えてないけど、俺はもう一度あいつに会いたいんだ。
罪在の森
茉莉は交通事故で死んでいた。
現実と向き合った俺は、茉莉が眠っている墓に言って墓参りをした。
その後俺は、先輩と円につれられてなぜか罪在の森に来ていた。
戻るべきところって基地とかじゃないのか?
てっきり基地にでも集まって、これまでの事について色々話をするのかと思ったが、どうやら違ったらしい。
円に連れられてきたのは罪在の森だ。
鬱蒼とした森の中には先客がいて、隣町にいるはずの織香がいた。
手を上げて、軽く挨拶をしてくる。
「やあ! 久しぶりだね君」
「何でお前がここに?」
「久々の再会にもう少し感動があってもいいんじゃないかい? 淡白だなぁ。君があんまりにボクの町に来ないもんだから、退屈してたんだよ」
なに言ってるんだ、コイツ。
いや、何で久しぶりだってそう言えるんだ。
まるで、覚えているみたいじゃないか。
先輩や円、他の人達は俺が繰り返してきてこれまでのループの事を、何一つ覚えていないっていうのに。
俺が織香に会ったのは、巻き戻りの世界の一つだけで、その事はこの世界の本人には話していないはずだ。
円辺りが俺の話を彼女に話したのだろうかと、そう思って視線を向けるのだが、否定するように首を振られた。
そうしていると、得意げな顔をした織香りがこちらに話しかけて来た。
「大いに困惑している様だね。よしよし、解説はボクの独壇場みたいだ。ちゃっちゃと先に進もう。ボクはちょっと病気で死にかけてるから、そんな感じでループの記憶を保持できるんだ」
円滑に話を進めたいのは分かるが、説明はしょり過ぎだ。
もっときちんと喋ろ。
いきなりそんな事を言われても信じられるわけないだろ。
「だから、この世界に本当に存在しているのは君とボクだけって事。分かんないかなぁ、君もボクも死にかけてるから、この世界に迷い込んじゃったんだよ」
「は?」
織香りは、特に人を食ったような態度を変えることなく、そんな事を述べて来た。
駄目だ言ってる意味が分からない。
当たり前の事を言っているだけ、みたいな彼女の態度に段々苛ついてくる。
「君は、1月10日に茉莉ちゃんが攫われた後、無謀にも一人で犯人を捜そうとして、罪在の森で返り討ちにあったらしい。それで君、ここに埋められちゃったみたいだね。で、酸素がなくなって死にかけてる。あれ? まだ思い出せないのかい?」
「何の話だ、一体」
どういうつもりでそんなバカげた話をするんだ。
けれど、織香りからは、特にこちらをからかおうとしている様子は見られない。
ただ事実を述べただけといったような雰囲気だ。
だが、そんなはずがないのは俺が一番よく知っている。
茉莉は1月10日に交通事故にあって死んだはずだ。
白い車が突っ込んできて、倒れた茉莉とひしゃげた交通標識の事はきちんと思い出せる。
と、困惑する俺をしげしげと眺めていた織香は、こちらの態度を見てそれについての説明を諦めたようだ。
「仕方ないか、この世界で矛盾なく活動する為には、必要な記憶だったみたいだし。とりあえずこの話題は一旦おいておこう」
織香は、先輩と円の方を見ながら頷いている。
こいつの話を信じるとすれば、今まで共に行動していた彼女達は実際には本物ではなかった事になるのだが、そんなはずはなかった。
俺が見た先輩と円は、どこもおかしな所なんてなかったし、不自然な言動なんて見られなかった。
意味が分からない。
それはそのままの意味なのか?
何か裏に別の意味が隠れているとかじゃなく?
すると織香は、やれやれとでもいうように首を振ってみせた。
「ボクの事については、この森で話をする事実からもう少し読み取ってほしいよ。ここはあの罪在の森だよ。いやはや、呑み込みが悪いね。君には前に話したじゃないか。災に気に入られた人間には、特別な力が備わると」
「……っ」
そうだった。
詳しい事は思い出せないが、確か隣町に行った時に織香がそんな話をしていた。
災に気に入られた人間には特別な力が備わる。
他でもない俺がその一人じゃないか。
だとしたら織香の能力とは……。
織香は、注射器の様なものをその手の中に出現させた。
「ビューティーナース織香ちゃんってね。さすが神様。分かっているね。ボクがもっとも必要としている能力だよ」
おそらく病状の緩和か、延命に関する能力なのだろう。
織香はそれで、今まで命を繋いできていたのだ。
本来なら学校を休んでいなければならない身だというのに、目の前の女性は平然と町中を闊歩していた。
あの時俺は、ただ彼女が猫を被るのが上手いだけだと思っていたが。
そういう理由があったのか。
「でも、この力にも限界はある。やはり人の身には過ぎた力のようだ。一定回数以上は使用できないようだよ。君の力だって、おそらくそうだ。だから、これから大切な事を言うよ。君、よーく聞いていたまえ」
最初からそうしている、という茶々は入れずに黙って続きを促す。
しかし。
「ああ、壊れ始めてしまったか。この世界の役目が果たされたのだから当然だろうね」
頭上からどんどんと扉を叩く様な音がした。
嫌な予感がして空を振り仰ぐと、ガラスのようにひびが入っていて、欠片が零れ落ちてくる所だった。
その先にあるのは真っ暗な虚無だ。
おそらく、町の周りも同じような虚無に覆われていっているのだろう。
何度も繰り返した巻き戻りの世界では、俺が罪と向き合わずに1月10日から先に行こうとすると、そうなった。
その光景とまったく同じだ。
終わりの見えない時の繰り返しを思い出して、嫌な汗が出そうだ。
出来る事なら、もう二度とあんな目には遭いたくない。
呆然としながらその場に立ち尽くしていると、ふいに近くに立っていた円が俺の背中を勢い良く叩いた。
「しゃんとしなさい未来、男でしょ!」
「円……」
「ふむ、これくらいでへこたれるなんて君らしくないと私も思うよ」
「先輩」




