第68話 エンディング
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何度も繰り返した1月10日はそうして過ぎさった。
悪夢の様な繰り返しを終えた後には、退屈で刺激のない、それでいて大切でかけがえのない日常が帰って来ていた。
「アンタがここに来るのは、初めてよね」
「む、彼女もきっと喜んでいる事だろう」
そんな俺達は一つの墓の前に立っていた。
たくさん並んだ墓の中にある、真新しい墓の前に。
俺はまず頭を下げて謝った。
「遅れて悪かった、茉莉……」
新品同様の様に見えるその墓で眠っているのは、俺の幼なじみである茉莉だ。
茉莉は、1月10日かの1か月前、12月10日に死亡している。
原因は交通事故だ。
時刻は朝。場所は、俺と茉莉のいつもの待ち合わせ場所だった。
その数日前に、茉莉は俺に告白していた。
けれど、俺は答えを返さなかった。
茉莉の告白にに答えを返してしまったら、先輩と円と俺の四人でいる日常が変わってしまうと思ったからだ。
だから、その罪悪感で俺は事故が起こった事をなかった事にしてしまったのだ。
俺は、事実を認めたくなくて、茉莉を死んでいない事にしてしまった……。
「ごめんな、茉莉」
俺は目の前にある墓へと向かって話しかける。
そこに茉莉の魂があるのか、ないのか分からないが。
謝らずにはいられなかった。
「俺がもう少し強かったら、勇気がある人間だったら、もしかしたらお前は死ななくても良かったかもしれない」
もし何かが変わっていたら、ほんの少しでも俺がとった行動が違っていたら、茉莉は生きていたかもしれない。
だって、あの何度も繰り返したループの世界では、俺の行動一つで様々な可能性が生まれていたのだから。
「茉莉……」
呼びかけるが、応えは当然返ってこない。
死んだ者は二度と喋らない。
「でも、幻でもお前がいてくれて助かった。お前じゃないのかもしれないけど、お前と過ごした記憶は俺を確かに助けてくれたんだ。ありがとな。そしてごめん」
あらかじめ持ってきた花を供えて、手を合わせた。
これで、つけなければならないケジメを一つつけた。
「えっと、それで先輩……、円。俺は言わなくちゃいけない事が」
告白されるまで待とうかと思ったが、それではまた意気地なしに戻ってしまいそうな気がして俺はすぐにその話題を口に出した。
「いや今はいい。気にしないでいたらいいさ」
「桐谷ほぞ仏にはならないけど、まあそうねおおむね同意よ。アンタが何を言おうとしているのか、分かっちゃったわ。それ、この世界でのアタシ達は言ってないんでしょ。だったらやめといて」
「いいのか?」
今の俺の動作や言葉でそこまで見抜ける事に驚きつつも、そこまで分かっているならなぜ答えを聞かないのかと思う。
告白とは、抱いた感情を実らせたくてするものではないのだろうか。
そんな風に思っていれば円と先輩は顔を見合わせて、やれやれ顔だ。
「はーぁ、ほんとにしょうもない男ね、なんでこんなの好いちゃったのかしらアタシ達」
「仕方ないさ。未来にはその欠点を補って余りある長所があるのだから」
「そうかしら?」
間接的に告白しているような会話が彼女達の間で展開されているのだが、その手の事に疎い烙印を押されてしまった俺では、何かしようと思ってもこの場で適切な行動をとれる自信がない。
いつかのように見守るしかなくなってしまった俺に、円が偉そうに話しかけて来た。
「いい? 告白って言うのは、感情の整理をつける為と、これまでの自分にさよならする為にするものよ。アタシ達に手を伸ばしたアンタは、今までの情けないアンタとさよならしたんでしょ」
それはその通りだ。
少なくとも俺はそのつもりだから。
俺は確かに、二人に撒き戻りの事を打ち明けた瞬間に、一人で抱え込む事を止めて、誰かの手助けを借りる自分になったのだ。
変わらない何かを変えていく勇気を学んだのだ。
「だから、あんたが茉莉ちゃんの事にケジメがつくまで待っててあげるわ。どうせ、返事は保留だったでしょから。昨日まで妹だったんだから、そんな目で急には見れないって感じに」
「う……」
言い逃れできないほどに当たりだった。
円達は本当は人の心が読めるのではないかと、思わず疑ってしまいそうになる。
そんなことを思っていれば桐谷先輩が一言。
「いいや、読めないよ。長い付き合いで分かるだけさ」
本当だろうか。
先輩だったら、嘘をつかれても俺には分からないから困る。
でも、茉莉の事は今でだって妹のように思ってる。
整理なら、つけたはずなのだが……。
「どうかしらね。もうちょっと自分で考えて見なさい」
円は俺に向かってそういって、撤収の準備を始めてしまう。
花と共に供えたお菓子なんかは、動物とかに食い荒らされたりして汚れたり被害が出るので、持ち帰りなのだ。
「とにかく、いつまでも立ち話してるのも何でしょう。そろそろ、戻るべきところに戻りましょう。やる事はまだ、いっぱいあるんだから」
報告したい事も、話したい事も一通り話終えた俺達は、その場を離れていく。
最後に一瞬だけ振り返れば、先程までは見かけなかった少女が佇んでいるのが見えた。
栗色の長い髪をした、猫の様に丸い目をしたその少女は……。
「茉莉?」
少女はそっと手を振って、瞬きの瞬間にそれは消え去ってしまった。
もしかしたら俺が見た幻の全部はたたの幻ではなかったのかもしれない。
俺達の事が心配だった茉莉が傍にいてくれた……。
そう思ってもいいような気がした。
この作品のテーマと書きたい事はここまでで出し切りました。
次からは番外編です。
ループ地獄に陥る前の話から。




