第67話 決着
「未来!」
最初にその気配に気が付いた円が、こちらに警戒を促した。
人が一人、外から入って来た。
そいつは、他の人間とは比べ物にならない身体能力だ。
早い。
こいつだけ格が違う。
俺はかろうじて、向かって来たそいつの進路上から飛びのいた。
鈍色の何かが光る。
「――チッ!」
黒服を着た男が刃物を握りしめて立っている。
もしかして、保険で一人だけプロが雇われてたのか?
どんだけ金儲けと利益に必死なんだよ、お前ら。
先輩がどんな思いで仕事してるか知らないくせに。
先輩は病気で困っている人を一人でも少なくしたいって立派な思いで、学校の勉強もおろそかにせずに頑張ってるのに。
「この……いい加減、負けろ!」
苛立ちを叩きつけるように、再度突進してきた男に拳を振り上げる。
だが、直前でよけられた。
「未来、そいつ強いわ!」
「分かってる!」
いったん距離をとって俺達はにらみ合う。
実力は相手の方が上。
そうなると、相手の意表を突くような仕掛けが肝心になる。
そうすべきか。
悩むままにじりじりと時間が過ぎていくと、ふと向かい合ったそいつが別の方を向いた。
その視線の先にいるのは、桐谷先輩だ。
「……まさか」
相手にとっての一番のターゲットは先輩だ。
奴等にとっては、俺達を倒す事なんて二の次なのだ。
そうだ。だから、真面目に戦闘なんてする必要が最初からない。
こちらを見向きもせず、相手は先輩の方へと向かっていく。
「くそ、待て!」
制止の声に、足を止める様な奴じゃない。
無駄だと分かっている。
それでも口から出ていた。
そんな事をするくらいなら、動け。
焦る感情のままに、思考が停滞しそうになった。
どうすればいいのか分からなくなる。
駄目だ。ここまで来たのに、こんな所でまた誰かを死なせるわけにはいかない。
十回も繰り返して、色んな人の力を借りて、やっと来た場所なのだ。
それでなくとも、もう誰かが死ぬのは見たくなかった。
「円、投げろ!」
「任せなさい!」
だから、俺は円に警棒を投げるように指示をした。
俺の一言で彼女は分かってくれたようだ。
投げられた護身用のそれが相手の背中に直撃する。
試みは成功だ。
奴の意識がそぎれて、その場に立ち止まった。
「先輩、下がってください」
「あ、ああ」
そして、少しでもその場から遠ざかりように先輩に指示を出し、俺は駆けだした。
この何度もくり返した一日の中で、すっかり見慣れてしまった屋敷の中を、今までに出した事がないような全力で。
「このっ!」
そして間に合った俺は、そいつの背中から飛びかかった。
殴って気絶させようとするが、相手は強かった。
その場で取っ組み合いになる。
背後からの先制攻撃で相手より有利だったはずなのに、いつの間にか形成がぎゃくてんしていた。
足を払われて相手の方が馬乗りになっている。
「ぐっ……」
何発か殴られて、額から流れ出した血が目に入った。
一瞬抵抗できなくなって、その隙に相手がナイフを振り上げようとする。
まずい。
そう思ったが、予想するような衝撃は来なかった。
「未来! 大丈夫かい?」
なぜなら相手は、凶器を振り下ろすことなく、その場に崩れ落ちていたからだ。
背後に、どこから持ってきたのか分からないが、作業用であろう踏み台を持ちあげた先輩の姿があった。
「助けられたみたいですね」
いつもの先輩ならば謙遜した言葉を返してくるところだっただろうが、ひそやかに根に持っていたのか、それはほんの少しだけ意地悪な回答だった。
「ああ、助けた。一人じゃなくて、良かっただろう」
「ええ、本当にそうです」




