第66話 運命の時
玄関ホールでよく分からない間接拷問を受けてる時、警報音が屋敷内に響き渡った。
連中が来たらしい。
俺達は口をつぐんで顔を見合わせる。
そんな中、いち早く人の気配を感じ取った円が玄関ドアの前へ陣取る。
遅れるようにして俺も横に、警戒音は屋敷内に鳴り響くままだ。
だがこれは、音量を低めにして、部屋の外には聞こえないよに調整してあるから相手には聞こえていないはずだ。
「桐谷先輩」
「ああ、任せたまえ。準備はできている」
普段は控えめである先輩は、いつになく自信をみなぎらせて、手に持っている小型のリモコンを示していた。
そして、数秒後。案内係が、玄関の扉を開いた。
足音は案内係と訪問者で二人分。
けれど、他にも人間がいて、屋敷の周囲に潜んでいる事は分かっていた。
「やあ、君かい? わざわざ済まなかったね」
出迎えた桐谷が訪問者に挨拶をする。
玄関扉を超えて訪問者が屋敷の中に入って来る。
俺と円は、両脇の扉のその前に立っていた。
「これくらいどうって事ないですよ。さあ九条さん。頼まれていた忘れ物を届けに来ましたよ。これをどうぞ」
そして、一歩、二歩入ってきた所で。俺が最初にとびかかった。
「――っ!」
相手は驚くが、不意をついたので成すすべもない。
そのまま取り押さえた。
「な、何を……」
懐を探ってみれば、凶器があった。
俺はそれを取り上げて、離れた所に待機していた男性の使用人達に、訪問客を装ったそいつを縛り上げてもらう。
「円!」
「分かってる、来るわよね!」
事態は予想通りだった。
そして円は俺を信頼してくれていた。
疑うことなく、扉から入って来た連中になぐりかかる。
俺は、ついさっき組み伏せた男を使用人達にまかせて、円の背後をカバーしに行く。
「あんまりやり過ぎるなよ」
「そっちこそ。アタシの邪魔しないでよね」
「言ったな」
「言うわよ。正義の味方の娘がここで格好つけないでどこで格好つけるの」
そういうセリフは普通男が言うもんじゃないのか?
俺は円と背中合わせになりながら、屋敷に入って来た連中を見つめる。
見覚えのある顔ばかりだ。
その中には例のストーカーもいた。
こいつは円が先輩の家にいかなかったら、恋路を邪魔された腹いせに円に復讐をしていた奴だ。
遠慮はいらないだろう。
円は、そのストーカー対策として身に着けていたらしい護身用の警棒を取り出して、相手へ向かっていく。
俺は拳があれば十分だ。
「アタシの背中、しっかり守んなさいよね」
「誰に言ってる、そんなの当たり前だろ」
命を賭けた場所で命を預けるなら、円程安心できる人間は他にいないだろう。
背中を任せるなら、誰よりもコイツがいい。
俺達は互いの資格をカバーする様に、相手とやりあう。
だが、それでも実力は拮抗している。
基地を襲われた時も、そのせいで桐谷先輩の手当てが遅くなったのだ。
けれど、今の世界では彼女は無事だ。
だから……。
「未来、円!」
先輩の声と共に室内の電気が一気に落とされる。
先輩が捜査したのだ。
だが、完全な暗闇ではない。豆電球程度の明りは残されていた。
けれども、そんな急激な光源の変化についていける人間はほとんどいない。
その隙を俺達は利用する!
「――ぁぁあああっ!」
「らぁぁぁ、食いしばんなさい!」
身構えていた俺と円は、すばやく行動を起こして、相手になぐりかかる。
知らないだろうけどな。俺がどれだけケンカふっかけられたり、ふっかけたと思ってるんだ。
地の利があってなおかつ味方の支援がある俺達が負けるわけないだろ!?
軽快な音をさせながら、残った人間を順調に片づけていった。
あれだけ苦労されられたと言うのに、終わる時は実にあっけなかった。
条件が整えば、こんなにあっけなかったのか。
明度を戻した玄関ホールには俺達がのした襲撃者共が揃って倒れていた。
「あ、こいつ!」
そんな中で、円がストーカーの存在に気付いたようだ。
倒れていた襲撃者の一人に駆け寄って、つま先で背中をぐりぐりやっている。
おい、そんな事して起きたらどうする。
茉莉流に言うと、そういうのフラグだぞ。
「ねちねちとこんなとこに出て来てんじゃないわよ! 振られたらいさぎよく引きなさいよね。相手の迷惑考えなさい!」
まったくこいつは。
危ない目に遭ったばかりだと言う事分かってるんだろうか。
まあ、俺の知らない所で色々苦労していたみたいだし、それくらい文句を言うのは多めに見てやるとするか。
その後、懸念していたように、のされた人間が起き出して、再びは向かって来るような事はなかった。
ただし、別の方面からは来た。




