第65話 恋バナ?
九条邸 PM10:00
夜の十時。
もうそろそろ頃合いだった。
俺達は、警備システムを起動させて玄関ホールで連中を待った。
ここで連中を迎え撃つ。
先輩の部屋にある爆破物は撤去したけれど、やはり待ち構えるなら広い場所の方が良い。
俺と円がいれば相手とやりあうだけなら十分だと分かっていたから、これでいいのだ。
警察には連絡しない。
相手が仕掛けるタイミングが読めなくなるからだ。
それに、ループから得た知識をまとめて無理なく説明するほどの時間もなかった。
隣町にさえ移動しなければ、おそらく基地を襲ってきたのと同じ面子で仕掛けてくるはず。
勝機はあった。
静かな屋敷内では、あらかじめ一部分だけ切ってある庭の警備システムの音は聞こえてこない。
「静かねぇ。まさかこんな事になるとは思わなかったわ」
暇な時間に飽きたのか、円が話しかけてくる。
「あのストーカーが、桐谷のライバル会社の人間だったって言うのもびっくりしたけど。普通何回も同じ一日繰り返してるなんて、信じないわよ」
なんて言いながら、彼女は肩をすくめてみせる。
「何だよ、お前は信じてないのか」
「そうは言ってないじゃない」
そうとしか聞こえなかったからそう言ったんだろ。
円は憤慨してしょうがないみたいな顔をしているが、その顔する人間が違うだろ。
だが、その言葉を聞いた先輩は珍しく笑いをこぼしていた。
「ふふ……、いや失礼。到底信じられない事だろうけれど、信じている。その理由を考えたらついね」
「理由って……何言いだすのよ」
先輩に言われた言葉に円が赤くなって、居心地が悪そうにする。
俺はその意味が分からずに、会話に置いて行かれるしかない。
「嘘を吐くには下手すぎるって思ったから、信じてやってるだけよ」
「そうだな、だから円は未来の事を信頼している」
「……含みある言い方ね、いつも普通なのにアンタって時々意地悪よね」
「そうかい?」
二人が一体何の話をしているのか分からない。
会話内容が分からないのでは、俺は人間の形をした背景になっているしかない。
「で、でもまあ。一応大切な時では頼りにはなると、お、思ってるわよ。ほら、コイツ男だし!」
人を指さすな。
お前は男だからって理由だけで、人を頼るのか。
「ああ、そうだな。そして真剣だ。どんなに大変でも、最後まであきらめない」
「あ、あと。意外に面倒見がいいところもあるわよね。茉莉ちゃんは当然として、近寄って来る奴には意外に優しいっていう?」
「世話好きなのだろう。一度気にいった相手のことは、それなりに考えてくれるよ彼は。それは他の事でも同じだ。夢中になると、驚異的な集中力を発揮する」
「執着力が強いって言ってもいいわね。その代わりちょっと思い込みが激しいけど」
何だこの唐突に始まった妙な会話は。
どこからそうなったのか分からないが、変な風にこっちを誉めるのはやめろ。
喜べばいいのか否定すればいいのか分からなくなる。
けど、先輩も円も俺の事を一応思ってくれてるんだし、おかしくはない……のか。
いやおかしいだろ。せめて俺がいないところでやってくれ。
なんか疲れて来た。
女子の恋バナに男子が一人交じってるとか、どんな罰ゲームだ。
「覚えてる? 未来と初めて会った時の事」
「ああ、町中でケンカしてたよ。けど未来は茉莉を守ろうとしていた」
「そうらしいわね。アタシの時もそんなだったわ。泳げない茉莉ちゃんを助けてた」
「ふふ、私達はずっと……茉莉を助ける未来を見てきて、今ここにいるらしい」
「はぁー、敵わないっていうか……叶わないわよね」
だから、俺の近くで俺に関する妙な話をしないでくれ。




