第63話 裏切りの理由
俺が、先輩や円にこれまでの事情を話した後、屋敷の事に関して真っ先に疑問の声を上げたのはやはり先輩だった。
俺の話の中で、屋敷の警備システムの事に一切触れなかった事を理由に、システム自体が切られているのではないかと推測したのだ。
そして爆破の件から、めぼしい内部犯と、その犯人がとりうる行動をすぐさま推測してみせた。
『敷地内侵入者がいれば、まず警報が鳴り響く。そして、屋敷内に侵入した時も、だ場合によっては隔離シャッターや、スプリンクラーなども作動するはずなのだが、一度も無かったようだね』
『はい……一度も』
これまでの巻き戻り、俺の行動によって様々な事が変化してきたが、逆に変化しなかった事も当然あった。
桐谷先輩、円、どちらかの死か、それかまたは両方の死だ。
そして、それに加わるのが、屋敷に簡単に侵入者が入り込んでしまうということ。
システムの管理は毎日怠らず確認していると言う事なので、考えられるのは、故意に切った人間がいるという事
そして、それを成した人間が、桐谷先輩の行動を敵へと伝えている内通者という事になる。
先輩は目の前にいる執事へと、己の推論ぶつけていく。
長年共に生活してきて信頼してきた相手に裏切られる先輩は、今一体どんな気持ちなんだろうか。
「君は、ここ数日私の行動をどこかへと伝えているのだろうね。それは、私の研究成果を簒奪、もしくは研究の妨害をもくろんでいる連中だろう」
「おっしゃる通りでございます。こうなってしまっては、仕方ありません。すべてお話しましょう」
そこで龍打さんが訥々と語りだしたのは、鐘に目がくらんだ欲深い人間の醜話……ではなく、やむおえない事情によってもたらされた不幸な出来事だった。
それは一か月前の夜の事だった。
務めを終えて帰路へとついた龍打さんは、屋敷外で起こった交通事故によって怪我を負ってしまった。
命に別状はなく怪我は軽かったものの、当時はひどい出血で外部からは怪我の程度が分からなかったらしい。
それで、近くにいた人が救急車を呼ぶ事態になったのだが、その際に他の場所で起きた事故によって救急車が来るのが遅れたらしい。
そうこうしている内に、出血の影響でか、龍打さんは交通事故の影響で意識をもうろうとさせ、気を失ってしまう。
ややあって無事に病院に搬送され、軽症であった事が判明するものの、龍打さんは自分が持っていた大事なものがなくなって事に気が付いた。
それはいつもは持ち歩かないもので……桐谷先輩が務める会社の、そこに勤める人たちの個人情報の詰まったファイルだった。
当然気が付いた龍打さんはそのファイルをすぐに捜した。
そして、ほどなくして広い主は判明するのだが、その相手が最悪だった。
敬愛する主の勤める会社の個人情報を人質に取られた龍打さんは、返してもらう為に仕方なくその人たちの言う事を聞いていたという。
「この龍打、愚かな事をしてしまいました。会社の汚点になるなどという考えに甘え、己一人で取り返そうと……。ですが、信じていただきたい。私は彼等がお嬢様を亡き者にしようとまでしていたなどとは、知らなかったのです」
「む、そうか。それはそうだろう、よく話してくれたな。大変だったな、しばらく休んでいてくれ」




