第56話 また失った
倒れた円の元へ、駆け寄る。
しゃがんで、彼女の体を抱えて身を起こす。
「う……」
円は、動いた。
生きている。
でもまだ生きているだけで、死んでしまうかもしれない。
刺された傷から真っ赤な血が流れだしていた。
「円、おい。しっかりしろ。大丈夫か!」
「っ。これが、大丈夫な、ように……見える?」
傷口が深い。
大量に流れだしていた血が、すぐに血だまりとなった。
駄目かもしれない。
そんな悪い考えが頭をよぎる。
「何て顔してんのよ。ほら、しゃんとしなさい。男でしょう、救急車……と警察。呼びなさいよ」
痛くないのか。
いや、そんなはずはない。
円はだけど、それでもしっかりした態度で、俺の行動を促してくる。
そこで俺はやっと、携帯を取り出した。
目の前で友人が大変な事になってるなんて、そんな場面にそうそう遭遇した事がないから、何をどうすればいいのか分からなくなりそうだった。
ぼうっとしそうになる頭を必死で働かせて操作していく。
「あいつ、……例のストーカーだわ。諦めたと思ったのに、邪魔なアタシを、排除するために……」
「だから前に、そう何でもかんでも頼み事引き受けるなって言っただろ」
「うっさい……わね」
息をするように悪態をつきながら、救急車へ電話をかける。
今回は……繋がった。
俺は応答に出た人に、伝えるべき内容を喋って切った。
次は警察か。
そんな中でその存在に気が付いたのは、偶然だったのか。
携帯の画面を見て、新しいメールを受信している事に気が付いた。
嫌な予感がして、目の前で円が大変な事になっているにも関わらず、俺はつい開いてしまう。
メールは桐谷先輩からだった。
『円の家で待っているよ』『手紙の悪戯の事で話がしたい』
内容はその二つ。
そして、最後には最初の日に貰ったメールの内容、それと同じ物が……。
『私は、君が気に入って』
途中で送信されていた。
内容はたったそれだけだ。
それだけのメールを、意味もなく先輩がわざわざ送るはずもない。
円の時と同じだ。
「何で……」
悟ってしまった。
桐谷先輩はまた死んでしまったのだ。
最期の告白をして、円の家で命を落としたのだ。
「何でだ。何でなんだよ。何でなんだ」
「みらい……?」
俺は浅はかだった。
俺が書いた手紙を、桐谷先輩は誰がやったのかすぐに見破っていたのだ。
だから、三人で相談するために円の家までやってきたのだろう。
俺が何かに悩んでいるんだと思って。
どうしてそこまで想像できなかった!
考えられなかったんだ!
馬鹿だ。
俺は大馬鹿だ。
「みらい、……しっかりしなさい。アンタがそんなんじゃ残される桐谷が悲しむじゃない」
その桐谷先輩はもういない。
「傷、深いわね。自分でも分かるわ……。アタシはもう助からないかもしれない。だから最後にあんたに伝えとくわ」
やめろ。
やめてくれ。
お前まで、俺にそんな事言うのか。
死ぬと決まったわけじゃないだろ。
何で俺なんかを。
何もできない俺なんかを。
「あたしは……アンタが、好きよ、未来」
円はそう言って、それきり喋らなくなった。
いつだったのか分からない。
だが、気が付いた時には円はもう死んでいた。
遠くから救急車のサイレンが聞こえてくるが、俺にできる事はもうない。
急いで返事を伝えればまだ届いたかもしれないのに。
俺は何も言えなかった。
円の最後の言葉に応える事ができなかった。
桐谷先輩が目の前で、同じ状況にいたとしても同じだっただろう
俺はただ、何もできずに見ている事しかできなかった。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」




