第55話 木の影
町の中をかなり走り回ったと思うが、円は未だに見つからない。
円が家を出た後、すぐに俺は追いかけた。
しかしアイツ、どういう足してるんだ。
そう時間は経っていないはずなのに、家を出てからあいつは全力ダッシュでもしたのか。
捜しても探しても、見慣れた姿は見当たらなかった。
運動神経よくて行動力ある奴は、こういう時に困るんだ。
「くそ、どこに行ったんだよ!」
携帯にかけてみたが、繋がらない。
「ああ、くそっ!」
本当に相性悪いよな、俺達。
苛立ちまじりのため息を吐くが、そんな事したって状況がよくなるはずもない。
立ち止まって、息を整える。
大した時間走ったわけではないが、焦りながらの捜索の為なのかやけに疲れた。
「何で、こううまくいかないんだ」
前はこんなものではなかった気がする。
あの時から、俺達の仲が上手く回らなくなってからずっとこんな事が続いている。
何をしても空回りで、努力が実らなくて、このままずっと同じように続いていくのではないかと、そう思うばかりで。
ふと、苛立ちの感情に引きずられるように、交通標識の前でポツンと佇む茉莉の姿が見えた。
『……っ! 未来!』
記憶の中の茉莉が、どこかを見て何かに気が付いた
そして俺を呼んでいる。
助けを、求めてる。
「俺は、茉莉の事で何か忘れてるのか?」
思い出さなければ、強くそう思うが。
「あ……」
一度記憶の底に沈んで行ったしまったそれは、容易に思い出す事が出来ない。
浮上しかけたそれが完全に記憶の中に埋没してしまった頃に、俺は見慣れた姿が視界に映っているのに気がついた。
円だ。
というかここどこだ。
今更周囲を気にして見回してみると、そこは罪在の森だった。
気が付かなかった。
こんなところまで来ていたのか。
「おいっ!」
だが、声をかけたのは失敗だった。
円はこちらに気が付いて、走って逃げてしまう。
俺は当然、その姿を追いかけるしかない。
「この、いい加減に……」
悪態をつきたくなるがかろうじてこらえる。
円に聞かれようものなら大惨事だ。
ただでさえ悪い状況なのに更に悪くしたくない。
「鍛えすぎだろ」
全力で逃げてくれうた円には、追いつくどころか見失わないようにするのがやっとだ。
距離は開いていくばかり。
だが、円は背後を気にするばかりで前方の確認がおろそかになっていた、きの陰から出て来た誰かとぶつかった様だ。
追いかけていた姿が立ち止まる。
助かった。これで、追いつける。
そう思ったが、それは間違いだった。
「――円!」
そうだ。こんな夜に、人間が一人で何で森にいる。
円がぶつかったその相手は、何故か見覚えがあるような気がした。
顔を見た事はない、はずだ。
なら、何で見覚えがあると感じた。
男が円に近づいていく。
走って、距離を詰めていく。
そうだ、そいつの体の動かし方だ。
それを俺は見た事があるのだ。
あまり嬉しくはないが、ケンカしまくっていた過去が意外な形で役に立ったようだ。
最近見たその動きは、基地を襲って来た連中の中の一人のものと同じだった。
何で、こいつがいる……!
「円、逃げろ!」
円は「え」と言う顔で、俺に振り返った。
その隙は致命的だ。
円は運動神経がいいし、警察官の娘だ。
普通だったら、たかが不審者に遅れをとるような事は無かっただろうが、今は不幸な状況が重なってしまっている。
背中を見せた円に対して、そいつは鞄から刃物を取り出して、振りかぶった。
円の死因は、ストーカーの因縁だ。
「やめろっ!」
何とかしたくても敵わない。
どう考えても、俺がたどり着ける距離ではない。
振り下ろすまでのその時間がやけに長く感じられた。
そう分かっていても、俺は急がずにはいられなかった。
「ぁ……」
ふいを突かれる形となった円は奴に背中を刺された。
円は倒れ込む
犯人はその場から逃げて行った。
「円!!」




