第48話 6度目の1月10日
吸血鬼の住む家 永野家 AM6;30
六度目の1月10日がやってきた。
俺は、何度も何度も同じ一日を繰り返している。
こうも繰り返していると、慣れなくても良い事に慣れてきてしまう。
今はまだそんな自分に嫌悪感を抱けているが、いつまでもこんな事を繰り返していたら、それすらも分からなくなってしまいそうだ。
できればこれで最後にしたいが、俺にできるだろうか。
弱気になりそうだった心を叱咤する。
茉莉にわざわざ背中を押してもらってここまで来たのだ、こんな所で弱音を吐いている暇はない。
先輩も、そして円も助ける為に、何かをする前から怖気づいているわけにはいかないのだ。
「そうと決まれば……」
俺は机の前に座って、一枚の紙きれを取り出した。
シャーペンを走らせて、ある文章を記していく。
今回はまず円の身に何が起こったのか調べなければならないが、そっちにかかりきりになっていると桐谷先輩の身が危ない。
だから、気が進まないものの小細工をする事にしたのだ。
高校 PM4:00
ここまでくるとさすがに変わり映えのしない授業内容が、退屈を通りすぎて苦痛になってきた。途中からさぼろうかと思ったが、どこでその影響が出てくるか分からなかったので下手な行動はできなかった。所々記憶が飛んでいたが、たぶん居眠り程度の不真面目で済んだだろう。
次もまた同じ授業を受ける事が無いように願いながら、俺は就業のチャイムの音を聞きながら円のクラスへと向かって行く。
上級生の教室が並ぶ区画まで行って、窓から目当ての人物が室内にいる事に気づいて安堵。
できるだけ最初の世界の行動をなぞってきたが、円が授業終了とともにイレギュラーな行動をとってどっかに行ってしまわないか不安だったのだ。
はやる気持ちが出てしまったのだろう、俺は彼女の姿を見てすぐに呼びかけた。
「円!」
「未来? 何よそんな急いで、何かあったの?」
「いや、何でも……」
俺の姿に気が付いた円はすぐにこちらに近づいてきた。
不審がられてしまったのは失敗だったが、言い訳に余計な言葉を費やしてケンカになるのでは本末転倒だ。
俺は言葉を濁した。
「珍しいわね。アンタがアタシのクラスを訪ねてくるなんて」
円は友人らしき女子生徒と喋っていた様だ。
近くにいたその女子に断りを入れてから、こちらに話しかけて来た。
俺が来た事で、邪魔してしまっただろうか。
と、そんな視線に気づいた円は手のひらを顔の前でひらひらとふる。
「ああ、もう終わったところよ。ちょっと相談に乗ってたんだけど、大丈夫。でもちょっとね……しつこいストーカーがいるとかで困ってるって話だったから。もしかしたらまだ相談に乗るかもしれないわね」
後半の部分は人前では話しづらい内容だったためか、こちらに顔を寄せて小声で説明してきた。
相変わらず姉御肌というか、面倒見がいいというか男勝りで気が強そうな見た目が作用しているのか、円は増勢から色々な相談をもちかけられているようだ。
確か最近はクラスメイトの一人が、ふったはずの男性にしつこく付きまとわれているとかで、円が付き添いで一緒に下校しているんだったか。
だとしたら、その女子生徒には悪い事をしたかもしれない。
「そいつ、帰りは大丈夫なのか?」
「ん? ああ、平気よ。私がしばらくついててあげてたけど、例の奴なら全然見なくなったもの。もうほとんど解決したようなもんだわ」
それなら良かった。
こちらの問題を解決しても、円のクラスメイトが反対に不幸な目にあったら、さすがに心が痛む。
「ほどほどにしろよ。お前、この間自分で消化しきれなくて俺を頼っただろ」
「何よ、男だったら頼られる事に誇りを持ちなさいよ。面倒事の一つや二つかたづけられない様じゃ、将来甲斐性なしって言われるわよ」
「誰にだ」
「そ、それをアタシに言わせるつもり!」
円は真っ赤になって、早口で聞き返してきた。
どうしてそこで焦るんだと思うが、そう言えばこいつは俺の事を……。
こうして話していると、俺に突っかかってる様にしかみえないのに、ややこしい奴だな。
茉莉も先輩もそうだけど、一体俺のどこに惚れたんだ?
そんな風にしていると、円と下級生の俺が話している事がそんなに珍しいのか、教室にいた生徒達から注目を集め始めていた。
近くを通りかかった男子生徒なんかからは「よ、夫婦漫才!」とか声をかけらる始末だ。
「――っっ! 場所変えるわよ!」
顔を赤くした円に引っ張られるようにしてその場から離れていく、
俺としても居心地が悪いし、円とそういう関係に見られるのはさすがに……困る。
こいつとは男友達に近い関係でずっと付き合ってきたからな。
今更態度を変えろと言われたら、どうずればいいのか分からない。




