第47話 理不尽に抗う
子供の部屋にあるには大きすぎるその衣装タンスは、両親が親戚か何かからもらってきた物で、これから服が増えるであろう俺の部屋に置く事になった家具の一つだ。
内部に吊るされているその時はまだ少ない服にまぎれるようにして、俺と茉莉は息をひそめていた。
部屋へと入ってきた侵入者が、様々な場所を漁っていくのを、扉の隙間から眺める時間は地獄のようで、とんでもなく長く感じた。
それは実際にあった子供の頃の出来事、一生忘れられないだろうと思っていた思い出だった。
俺はその時、一生懸命に祈っていた。
いるかどうかも分からない神様に。
どうか自分達の存在に気が付かずにこの部屋から、この家から出ていってくれますように、と。
なにせ、その当時はケンカもできないただの子供だったから、侵入者と取っ組み合いをする事なんて選択肢は浮かびすらしなかった。
見つかったら終わりだと、そう思っていた。
けれど、そんな必死な願いは聞き届けられる事なく、俺達はあっけなくみつかってしまった。
その瞬間の事はよく覚えていない。
ただ必死で、怖くて、どうにかしなければと考えていただけだったから。
タンスを開けた侵入は、俺達を見つけて何か言葉を発していた。
その言葉の内容をよく理解する間もなく、俺の後ろで震えていたはずの茉莉が唸り声を上げながら侵入者にとびかかった。
「未来にいじわるするなぁぁぁっ!」
その頃から妹のように思っていた少女に。
俺は、何もできない自分が情けなくて、そこら辺に転がっていた銃を手に取ってつきつけていた。
馬鹿みたいな行動だと思う。
まったくの無意味だと。
けれど、それでも、叶わなくてもいいから、茉莉が頑張っているのに俺が何もせずにいるなんてできなかったのだ。
俺はその時精一杯こう叫んだ。
「――ここから出ていけ、この悪党!」
その言葉だけははっきりと覚えている。
赤い銃を握りしめながら。
ようするに、時間を巻き戻す能力を引き起こすあの銃は、理不尽な悪に立ち向かう俺の反抗心の象徴なのだろう。
理不尽な目にあった時、大切な誰かが傷つけられた時。
誰かを守りたいと思って、怒って、悲しんで、拳を握った時のそんな気持ちの塊なのだ。
謎がとけた。
その昔話のその後の結末についてはいわずもながなだ。
どうにかなった。
俺と茉莉の決死の努力が報われたという事ではないのが残念ではあるのだが、偶然付近を通りかかったパトカーのサイレンの音に反応して、侵入者が自ら逃げて行ったのだ。
幸いにも誰も命を落とさなかったし、怪我も負わなかった。




