第45話 頑張る
書きかけの乱文。
文字にならない悪戯のような中身。
けれど、それは本来なら先輩から送られてくるはずのメール。
今までのループでは、一度も送られてこなかったメールだ。
きっと、この世界での俺の行動で変化したのだろう。
メールの送信者は円。
普段なら、悪ふざけだと断じる事ができたのだが、そういうのとは違うのだとすぐに分かった。
「一体、何のつもりで……。何で」
彼女の気持ちは分かっていた。
ケンカしてるふりして俺に好意を抱いていたとか、どっかのラノベのツンデレかと思うが。
でも、分かってはいたのだ。
だけど、何で彼女がこのタイミングでそれをメールにして俺に、送信するのだ。
「……っ」
決まずいとか、どんな態度で接すればいいとか思ったがすぐにそんなのどうだってよくなった。
俺はすぐに電話をかけた。
『未来……、ごめん』
聞こえてきたのは、今にも消えてしまいそうな円の苦しそうな声だった。
「円……?」
『あたし、もう駄目だわ。だから……ごめん。桐谷に謝って、おいて』
「なんで、だよ」
何でお前が?
そんな死にそうな人間みたいな事言ってるんだ。
途切れ途切れに聞こえてくるその言葉は、今にも途切れてしまいそうで、俺は円へと呼びかけていた。
「円……? おいっ。何があった!」
聞こえてくる内容は短かった。時間にして数秒、一分にも満たない。
一方的なだけの内容。
『あと、あたし……、あんたの事好きよ』
「円! 返事をしろ!」
たったそれだけで終わってしまった。後は無言が続いているだけだ。録音限界時間のギリギリまで。
なんだこれ、何だよこれ。何が起こってるんだよ。
冗談じゃない。
俺から大切な人をどれだけ奪って行けば気が済むんだ。
俺はすぐさま茉莉へと電話をかけた。
「茉莉!」
『わ、どうしたの未来ー? もう夜遅いよー?』
「頑張ってって言ってくれ、俺に」
『何かあったの? どうして?』
「俺の友達が傷ついてる、俺はそれを何とかしたい。だけど駄目なんだ、分からない事が多くて、増えてて……頑張りきれる自信がない。ひどいって思うだろ。ヘタレてる、弱虫だって、でもしょうがないんだ。だからお前が背中を押してくれ!」
『あたしはそんな事ないよって言ってあげたいけど、未来が今ほしいのはそんな言葉じゃないんだね。分かりました。あたし頑張ります。未来はひどいです。駄目な子です、ナンジャクもののケイハクなナンパ男です。あと鈍感だし、お鈍ちゃんだし、自覚のないカラシ? タラシさんだし? とってもとっても悪い人です』
「……そこまで言えとは言ってない」
『えへへ……ちょっと頑張り過ぎちゃったー』
電話の向こうから聞こえる茉莉の声は、いつもとまったく変わらなくて、少しだけ力が抜けた。
茉莉と話しているといつでも安心できる。
今のやり取りで、少しだけ元気が出た気がした。
『未来は今とっても大変なんだね、うん。分かった。頑張って。あたし応援してるよ』
「ああ、ありがとな。絶対俺、最後まで頑張るからな」
電話を切る。
もう迷いはなかった。
戻れない方が、取り戻せない方が、今の俺にとってはもっと怖い。
「先輩、円……」
――絶対に今度は助けて見せる。
心の中でそう呟いて、俺は引き金を引いた。




