第43話 慣れ
甘く見ていた、先輩の屋敷の構造を覚えたつもりだったが、区画がいやに多くて多様だったせいで、元の場所に戻る事ができなかった。
こんな単純な、馬鹿みたいな事で時間を食うなんて。
まだ時間は屋敷に来てから一時間も経っていない、けれど、胸騒ぎがした。
今までの世界で、俺が関わった事で変化した事がいくつもあった。
だから、毎回、先輩が同じ時間に死ぬとは限らないのだ。
「くそ、先輩……」
抱いた不安も焦燥も、ただ空回りするだけの時間が、じりじりと過ぎ去っていく。
そして、運命はそんな俺を張るかな高みから、ただあざ笑っていたのだ。
苦労して見慣れた場所まで辿り着いた事には、全てが終わっていた。
気が付くべきだった。
忘れ物をもらってくるだけなのに、先輩の帰りがやけに遅いと言う事に。
どこでも鉢合わせなかったという事に。
先輩でも執事でも使用人でもいい、その誰もが、屋敷内で放浪している俺を探しに来なかったという事実に。
行きに通った玄関ホールには多くの人がいて、沈痛な面持ちをしていた。
遠くから、救急車のサイレンが聞こえてくる。
そして、俺の姿に気が付いた執事の龍打さんが、こちらに近寄って来て、決定的な真実を告げた
「当家に再在中お騒がせする事になって、申し訳ありません、桐谷お嬢様は……お亡くなりになりました」
嘘だと思いたかった。
けれど、玄関ホールで倒れていた先輩は血だまりの中だ。
俺は、どうしてか携帯を取り出していた。
何をするのかと自分でもよく分からないまま、メールの着信歴を確認していく。
……ない。
そこでやっと何を探しているのか分かった。
彼女が最後に伝えたかった言葉は、誰にも届かなかった。
屋敷の中まで携帯を持ち歩くような人ではなかったらしい、彼女からのメールは送られてこなかった。
俺は、ただただ無念を抱かせて予定の時間よりも早く先輩を死なせてしまったんだ。
「先輩は……」
慣れたくなかった。
こんな時に打算何か考えている自分の神経が信じられない。
次があるなんて、まだ決まったわけでもないのに。
「先輩は誰に、何で殺されたんですか」
でも聞かなければならない。
何も知らないままだったら、それこそこの世界が無駄に終わってしまう。
友人の死を見ても大して取り乱さない俺を見て、龍打さんは何と思っただろうか。
顔を伏せながら、情報を教えてくれる。
「競争相手の会社の者です。新薬の開発でもめることがしばしばあったので、その関係かと。若くありながら才覚をあらわにした桐谷お嬢様は、普段から目の敵にされているようでした」




