第39話 例の事
「さて、待たせてすまないな」
勉強用具を整理し終えた先輩が振り返って、俺の近くまで椅子を持ってくる。
向き合って座る形になった。
友人で先輩とはいえ、女の人の部屋で二人っきりで向かい会って話をするという状況に少し緊張してきた。
円が言っていた事がほんの少し分かったような気がする。
上手く言えないが、これは色々まずい。
しかし目の前で真剣な空気を纏う先輩は、俺の予想外の事を喋った。
「例の分からない所とやらも、後で見させてもらうつもりだが。その前に……。未来、大切な話というのは、例の事で良いのだろうか」
「例の事?」
予想外も予想外だ。
目の前にいる桐谷先輩の顔は、普段もそうだが、それ以上に真剣な表情をしている。
例の事、と言われても反応に困る。
告白の事なら、こんな聞き方はしないような気がするし。
心当たりになりそうな事はみつからなかった。
先輩はどんな話をしたがっているんだろう。
何か大切な事があるのに、俺が忘れているのだろうか。
「ん、分かったわけではないのか、違うのか。そうか……」
心なしかどこか落胆したような様子を見せる先輩は気分を切り替える様に、頭を軽く振った。
「君の様子がいつもとは少し違う様な気がしたから、もしやと思ったのだが、輪足の想像とは違ったみたいだ。では、何か悩みでもあるのかい」
「ええと……」
そういわれるときになるのだが。
しかし、他の事に集中していられる余裕はない。
切り替えるしかないだろう。
けれどこうして家まで来て置いてなんだが、話に困る。どう話したものか。
本当なら適当な話題をふって、何かがあったらしいその時間まで過ごそうかと思っていたのだが、先輩相手に嘘をついてもすぐ見破られそうだし。
かといって本当の事を話すのは論外だ。
もう二度と大切な人を無くしたくない。
そもそもいきなり、貴方は今夜の十時ごろぐらいに何かが起きて死にますなんて言ったところで信じてもらえるはずがない。
いくら聡明で頭のいい先輩と言えども、俺の正気を疑うだろう。
時間を巻きどもってきたなど、実行した俺すらもしばらく信じられなかったくらいなのだから。
結局、俺はその事に関しては口をつぐむ事にした。
「すみません、詳しくは話せないんです。どうしてもと言われたら、考えますけど……」
「そうか、まあ無理には聞きはしないよ。私は、その……君といられるだけでも、案外楽しい」




