第36話 泥をかぶる方法
胸を叩いて言い張る茉莉の姿が瞼の裏に浮かぶようだった。
「これを言えば、絶対大丈夫です!」
「本当にか?」
茉莉はそう断言するが……。
かえって火に油を注ぎこむような真似にしか見えないんだが。
だが、今までのこいつのアドバイスは役に立つものばかりだったし。
「だってあたしが断らないもん!」
「そ、そうか」
茉莉は自信満々でいる。
やるしかないのか。
後が怖いが。
とりあえず礼を言って切った。
教えられたその内容は、言い方が違うだけなのだが、さっき発言とは比べ物にはならない威力を秘めている。
ループ前の俺だったら、いまいちピンとこないし、納得できそうにないものだったが。
今はこの爆弾を投げ込む事がどれだけヤバい事か分かる。
けれど、もうあんな風に先輩を死なせては駄目だ。
こちらは藁にもすがる思いで、もう一度巻き戻って来たのだ。
桐谷先輩を助ける為に、試してみるしかない。
俺は部室へ戻る。
「桐谷先輩」
そして俺は再び先輩へと声をかけた。
先輩と言い合っていた円が、威圧するような視線を送って来たが、取り合わない。
「ん、何だい?」
「俺、先輩の家で大事な話があるんです。俺と、先輩の、これからについて。どうしても……駄目ですか」
「んなっ」
横にいた円が絶句した。
円どころじゃなくて、他の人間も絶句した。
劇的過ぎる変化に、狼狽えそうになる。
気のせいだろうか、部屋の温度が凍ったような、生暖かくなったようなそんな気がするのだが、この方法で本当に良かったのだろうか。
先輩はわずかに目を日張っていたが、何かを決意するようなまなざしになったり、一旦呼吸を落ち着けたりして、普段なかなか見ないほど、表情が豊かになった。
そして、こちらをみてやや緊張した面持ちで口を開いた。
「ん、そういう事なら良いだろう」
良かった……らしい。
心の中でそっと安堵の息を吐くと同時に気を引き締めた。
あらぬ噂は立ってしまうだろうが、仕方がない。
変に言葉を濁らせるより、明確にした分だけ、憶測のない噂は減っていくはず。
全てが終わった後、俺が先輩にフラれてすぐに帰った事にすれば、それで済むはずだ。




