第35話 説得の方法
円はこちらによく聞かせるように、はっきりとした声で話を続ける。
「あのね、アンタが思ってるほど皆は他人に興味がないわけじゃないのよ。ケンカ上等のアンタに、製薬会社のアドバイザーの桐谷、話の種としては十分でしょ? 絶対にそんな事させらんないわ!」
ここまで言えば、何が言いたいのかそれぐらい分かるでしょと言わんばかりの円。
さすがに俺もそんな事は望んでいない。
俺だけならともかく、先輩にあらぬ噂が立って先輩の迷惑になってしまうのは嫌だった。
そんな俺の顔色を読み取ったらしい円が、続きの言葉を述べてくる。
「昔にケンカ三昧送ってたアンタが色々言われるのは仕方ない事だって思うけど。自分のガード甘くして、身の回りの人間まで巻き込んでちゃ駄目でしょ? 父さんがたまに言うのよ、最近の若者は自分の行動が他人にどう見られるのか分かっていない奴が多すぎるって」
円の父親はどんな職業の人なんだ?
だが、どうであれ娘である円は、家族である父親から職務の事で色々と話を聞いているのだろう。
そのセリフにはいやに実感がこもっていた。
イベントとか祭りの時の警備に駆り出されては、マナーのなっていない人間に困らされてるみたいに説明してくる。
ひょっとしてこいつの親って……。
「だから、二人っきりなんて絶対にダメ」
円は、最後の言葉には殺気すら滲ませて告げる。
別に家に泊ると言っただけで、二人きりになるわけではないのだが。
だが、こうなると少しまずい事になった。
今夜、先輩を一人にすると危険なのだ。
どうにかして、守らなければならないと言うのに。
まさか、味方に邪魔される事になるとは思わなかった……。
一瞬、過去に戻った事を打ち明けてしまおうかと思ったが、すぐに却下。
無理だ。
証拠もなしに、信じられるわけがない。
だがこのままでは困る。
そんな俺の様子を見てか、桐谷先輩が取り成す様に言葉をかけてくれる。
「ん、円。そこら辺にしておいたらどうだい? 未来にも事情があるんだろう」
「桐谷は甘過ぎよ。もうちょっと厳しくしても良いはずだわ。だいたい前だって……」
助かった。
助け船を出してくれた桐谷先輩と円が会話を始めるのを見ながら、俺は携帯を取り出して部室を出る。
そこで、幼ないじみに電話を掛ける事にした。
詳細は伏せて、桐谷先輩の家に何とか止まる方法はないかと尋ねてみる。
俺の幼なじみは、こういう時はすごく頼りになる。
「んー、桐谷さん家に泊まるのー? いいなー、あたしも泊まりたいー」
「駄目だ、遊びじゃないんだぞ」
「えー」
「それで、何か良い方法思いつかないか?」
「どうしても? あるよー。桐谷さんのお家に止まる方法知ってるー。未来には、特別に教えたげる!」
「本当か?」
事情により同期やら目的なんかは説明できなかったが、茉莉はそれでも何らかの解決方法を思いついたらしかった。
「それはねー」
とっておきの秘密でも教える様に、電話越しに教えられたその方法は、思わず声が詰まった。
こいつぽやぽやした見た目に反して、実は告白の返事を引き延ばされてる事、根に持ってるんじゃないだろうか。




