第32話 名づけの達人
互いの学校への分かれ道までやってきた。
首を軽く振って考え込んでいた思考を切り替えていると、そんな俺の様子をじっと見ていた茉莉に気づいた。幼なじみが口を開く。
見上げる様にして、茉莉の猫の様な丸い目と視線があった。
「未来考え事してるー? 何かねー、いつもよりちょっと怖い顔してます」
「そうか?」
自覚はなかったが、考え事している時の人相に自信が無い。
強面の部類に片足を突っ込んだような人相とたまに評される俺の顔は、路地裏でケンカをしててもおかしくないだろうと、友人達に言われるくらいだ。実際そういう事にあけくれていた過去もあることだから、余計にだろう。
だが、あらためてこの人懐こい幼なじみに怖いと言われたらへこむ。
茉莉は、うーんとうなりながら言葉を続けてきた。
「あのねー、何かねー、眉根がよって、みんな俺に近づくなーっ……て顔してます」
「そこまでじゃないだろ」
真似でもしてるつもりか、指で眉を吊り上げて見せる茉莉。
本当にそこまで殺気だっていたつもりはなかったのだが、それが本当だったら歩く顔面凶器だ。
だが、前代未聞の事態に直面しているのだから、それくらいであってもおかしくはないのかもしれない。
そんなことで、茉莉を怖がらせるのは俺の望む所じゃない。
気をつけなければ。
「そういえば、茉莉の怖い顔はたまにしか見た事ないな」
「あたしはねー。すっごく駄目だよーって時は、笑いながら怒っちゃいます」
「そうだったな。そっちの方が怖い」
「えへへー」
思い出すのもトラウマになりそうな、眼の前の幼なじみにまつわる意外なエピソードだ。
ふわふわぽやぽやしているように見えるのだが、怒った時にはまったくあてはまらない。
烈火のごとくとか雷が落ちるように、なんていう比喩が可愛らしいくらいの惨状
になる。
相手にのまれる、というのは怒った時の茉莉のためにあるような言葉だろう。
それくらい、茉莉を怒らせるとかなりとんでもない事になる。
今までの人生の中で、片手で数えられるくらいしかそんな場面はなかったが、記憶に焼き付いていてそう簡単には忘れられそうにない出来事に、冷や汗をかきそうになる。
「未来ー。何か悩んでるんだったら、相談してねー。あたしじゃなくても、桐谷さんでも、円さんでもいいから、一人で抱えこんじゃだめだよー」
「ああ、分かってるよ」
「ほんとかなー」
小首を傾げる茉莉の頭を撫でる。
どうやらこの幼なじみは俺の事をあまり信用していないらしい。
自分でどうにもならない事が起きてそのままにしてられる程、俺は馬鹿ではないと思うのだが。
「そういえば……」
「んー、どうしたのー?」
「いや、時を巻き戻せる銃があったとしたら、何て名付ける?」
「んー? あたしだったら? えーと、クロック・バレットとか、クロノ・ガンナーとか、後はリライト・ツールとか?」
よくそんな名称がさらさらと出てくるな。
ここまでくると、逆に関心してしまう。
茉莉は本当に、色々な場所や物にオリジナルの名前を付けるのが得意だった。
基地の建っている丘も、星降る丘とか名付けてるし、今歩いているこの道……傾斜のある坂は夕日燃える坂とか呼んでいるし。
前者は屋上で流れ星の鑑賞会をした時につけたもので、後者は子供の時に夕暮れ時なるまで公園で遊んでいたから、だ。
「あとは、ループ・ドライブとか、メビウス何とかとか……」
「その無駄な才能をもっと他の所に費やせないのか」
「あー、ひどい事いったー。あたし怒ります。怒っちゃいます! 未来なんかきらーい」




