第30話 五度目の1月10日
吸血鬼が住む家 永野家 私室 AM6:30
桐谷先輩が死んだ。
そして俺は罪在の森に行き、己の罪の懺悔した。
最後に災の手をとって、俺が何をしたのか。
詳しい事は覚えていない。
ただ、分かるのは。
一発の銃声が聞こえた事だけだった。
それがどこからしたのかとか、どんな風にしたのかとか、まるで記憶にない。
そして、気が付いたら。
「朝……?」
朝日を浴びて、ベッドの中で眠っていたのだった。
携帯に設定した起床のアラームが鳴り響いていた。
目覚めてすぐ後、視線の先に飛び込んできた携帯の時刻表示を見つめる。
1月10日。
AM6:30。
時計の表示は、今まで見たものと全く同じだった。
もう何度も同じ朝を繰り返していても、朝に弱い体質は相変わらずだ。
窓から差し込む朝日にやられてしばらくうめいた。
ベッドから這い出て間もなく、俺は意識が途切れる前にしていたある行動を思い出した。
「そうだ、銃を撃ったんだ」
右手を見つめる。
森の中で災の差し伸べた手をとった俺は、いつの間にか銃を手に握っていた。
どこからか引っ張り出したとかじゃない、気が付いたら握っていたのだ。
色は血を思わせる様な赤、形はどこかで見た事のあるような銃の形だった。
そんなどこからともなく突然現れた銃を俺は、あたりまえのように握っていた。
それで、俺は何も考えずに自分のこめかみにその銃を当てて、引き金を引いていたのだ。
なぜ、そんな事をしたのか分からない。
まったくの意味不明。
我ながら理解不能すぎる行動だ。
いくら親しい人間が死んだからって、自分から即座に自殺しようとは考えないはずだ。
衝撃的で、悲しいことは確かだったけれど。
「……っ」
思い返していれば、何とはなしに眺めていた自分の手のひらに、唐突に重みが発生した。
唐突にそこに出現したのは、今まさに思い起こしていたその銃だった。
どっしりとした重量のあるそれは、金属質の光沢を放っていて、硬い手ごたえを伝えてくる。
血のように赤い、深紅の銃。
ついさっき見た記憶の中のそれと一致するものだった。
「俺は、この銃をどこかで見た事がある……?」
普通なら驚く所だろう。
だが、突然現れたその現象を気にかけるよりも、激しく見覚えがあるその形が引っ掛かりとなって動揺が引っ込んでしまったようだ。
懐かしさが込み上げてくる。
それは、嫌な思い出ではないようだ。
どちらかと言うと、喜びや誇らしさにまつわるもの。
「一体どこで、見たんだ……?」
記憶を探っていって、一番最初に思い浮かぶのは茉莉の顔だった。
今のではなく、もうずいぶん昔の……小学生くらいの頃の茉莉の顔だ。
その茉莉が、何かに怖がっている様子で俺に話しかけていて……。
その時に聞いた言葉を思い出そうとしていくのだが。
「未来、いつまで寝てるの? ご飯冷めちゃうわよ」
朝食の準備ができたらしい母の言葉で、思い出しかけていたそれらが霧散していってしまう。
「はぁ……」
集中してもう一度思い出そうとするが、うまくいかなかった。
とりあえずベッドから出る事にした。
1月10日の朝にしたような行動をなぞりながら、もう一度身支度を整えて、リビングへと向かって行く。
ただよってくる朝食の匂いは全く同じだ。
向かった先に見たメニューはいわずもがな。
母が俺に振って来た話題も、まったく同じ物。
本当にまた俺は、1月10日に戻ってきてしまった様だ。




