第29話 今ここにあるものを
意味が分からず、答えに窮していると、脳裏に様々な光景が浮かんできた。
それは今よりもうんと昔の時代の光景だ。
機械らしい機械もなく、道も町も大きくなくて、遠くに行くなんて夢のまた夢だと思うような、そんな昔のもの。
道は舗装されていなくて、並ぶいえいえは木材でできた質素な物ばかりで、そこにいる人々の生活はとても質素なものだった。
小さな村のあちこちの光景がいくつも見える。
のどかで静かで、どこにでもありそうな、そんな村。
けれど、不作の影響で、気候の変化の影響で、大量発生した害獣の被害で、村の人々は次々に死んでいく。
それでも人々は互いが互いを思いやって励ましあって生きていた。
けれど、思いやりや励まし合いだけでは生きてはいけない。
不安そうな表情をした人々達は、やがて村の中で役に立たない者を選び、神への生贄に捧げた。嫌がる者達や命乞いをする者達を、土と大量の石で多い、地面にうめて。
それでもだめならば、気に入らないものを。それでも状況が改善しないならば友人を、家族を。
彼等は生きる為にそうして、ささやかな幸せを一つずつ切り捨てていったのだ。
未来にその行為を責める事などできようもない。
彼らの苦しみも痛みも知らない、遠い時代に生きているのだから。
けれど。
「そうしてまで取り戻したかった過去の幸せは戻らなかった……?」
脳裏にあった映像が途切れる。
過去の中にあった人達はみな、後悔していた。
目の前の少女らしき存在は、かすかに頷く様な動作をした。
当然だろう。
仲間を、家族を切り捨てて笑って生きていけるはずがない。
たとえ、生物の本能通りの行動で、自らが生き残る為のものであっても。
大切な人がいなければ、いきてはいけないのだ。
一人ぼっちでは駄目なのだ。
俺達はそうできている。
『罪を問う。お前の罪は……』
「俺の罪は……」
返事を返さないまま、逃げた事だと思っていた。今まではそうだとばかり。
だけど、きっとそうじゃない。
違う。
「俺の罪は、俺を心配してくれていた人達を蔑ろにしたことだ。その時にあいつらから得られたはずの思いを、幸せを蔑ろにしたこと。そうだったんだな」
今を大切にしていなかった。
過去の幸せばかりを追い求めていた。
ちゃんと皆が幸せに過ごせる未来に行く為には、今を大切にできなければいけなかったのだ。
ないものをねだりすぎて足元にあるものを見過ごしては本末転倒だ。
俺は一度それが分かっていたはずじゃなかったのか?
苛立ちを誤魔化す為に、うさ晴らしをし続けたが為に、茉莉は俺を心配して夜の町の中を走り回ったんだぞ。
あの時は幸いにも何ともなかったから良かった。
でも、もし茉莉の身に何かあったら、どうしていたんだ俺は。
俺が大切なものを見失っていなければ、あんな事はそもそも起こらなかった。
永野未来は、成長しない。やるのは馬鹿ばかりだ。
そんな俺に向かって、そいつは手を差し出した。
『罪を許す、思う明日を探しだせ』
俺はその手を掴むのに、躊躇わなかった。




