第28話 意味がない
やっと元通りになると思っていた。
大切だった日常が戻ってくると思っていた。
それなのに、先輩が欠けてしまったら意味がない。
「ちょ、止めなさいよ、未来。何やってるのよ」
はたからみたら何て滑稽な事だろう。
だけど、俺は血を流しながら、祈った。
また今日を。
この1月10日を繰り返す。
仲間がいない明日なんて、来たって意味がない。
たまたまそこに立っていただけの交通標識に八つ当たりするように、頭を打ち付ける。
こんな要らない記憶なんて、いっそ吹っ飛んでしまえとも言わんばかりに。何度も何度も。
けれど、血で染まった真っ赤な視界はいつまで経っても変わらない。
絶望的な夜闇を目に映し続けていた。
何度か痛みで気を失う事があったが、見慣れ過ぎたあの朝を迎える事は無かった。
「何でだ。何で……!」
罪を認めたからか。
悔い改めてしまったからだ。
だから、もう力が使えなくなってしまった。
そうなのか。
こんな事ってないだろ。
俺は罪在の森へ向けて走り出す。
背後からかけられた円の言葉に一瞬足を止めそうになったが、それでも。
「ちょ、どこに行くのよ未来。桐谷を置いてくの!?」
ザイアの森 PM11:55
罪在の森に向かうまでに、携帯は繋がるようになった。
救急にも、警察にもかかるようになったが、今更だ。意味がない。
森についた俺は、災へと呼びかける。
「おい、いるんだろ、神様とやら! 俺にもう一度力を寄越せ」
声が響くばかりで、呼びかけに対する応えは返ってこない。
駄目なのか。
もう俺は、二度と今日を繰り返す事ができない。
同じ日が続かないことがこんなに絶望を感じるなんて、少し前だったら想像できない。
「頼む、頼むよ。俺に力を戻してくれ。このままじゃ、こんな形で明日を迎えたくないんだ! 俺は……」
膝をついてどこにいるのか、分からない人間に頭を下げる。
なんて滑稽なのだろう。
でも、これしか方法がない。
これでもしまたあの力を使えるのなら、きっと俺はどんなことだってやって見せるだろう。
やっと戻って来ると思った平穏を、取り戻す為なら、何だってしてみせる。
『――』
唐突に近くに気配が発生した。
気が付いたら、俺を見下ろすように近くに誰かが立っていた。
今日みたあのぼんやりとした何かがそこにいる。
相変わらず、詳しい姿形はまったく分からなかったがどうでもよかった。
「頼む、力を貸してくれ。助けたい人がいるんだ。守りたいものがあるんだ。俺は、何でもする。何でもやる。だから……」
『今の……』
目の前にいるそいつは俺の言葉を遮るように、か細い声で何かを語りかけて来た。
「……?」
今の?
『問う。時の旅人よ。今の幸せを、捨ててまで、それは得るものか』
今度ははっきりと聞こえた。
少女の声だ。
けれど今の幸せ?
どういう事だ?




