第27話 急転
円と背中を合わせて、基地に乗り込んできたやつをぶちのめしていく。
円の立ち回りは、ふだん後輩達や同級生から頼りにされる以上だった。
未来のそれが何でもありのケンカをベースにした自己流の戦い方なら、円のものは正式な訓練を積んだ、安定感のある綺麗な戦い方だった。
警棒を片手に、一人二人と黒服たちを打ちのめすその動きは見事としか言いようがない。
そうこうしている内に、相手が形勢不利だと悟ったのか、水が引くように撤退していった。
そいつらが戻ってこないのがはっきりと分かったのを見て、倒れている桐谷に駆け寄る。
「桐谷」
「先輩!」
先輩の顔は青白くて、血の気がなかった。
呼びかけてもしばらく反応が無かったから、最悪の状況を想像してしまった。
「……ん、君達か」
しかし、先輩はかろうじて声を上げて反応を示した。
だが、安心するのは早い。
見れば、傷口からは、今も地が流れ出している、まだ油断できない状況だ。
「手当するわ。未来は連絡入れてちょうだい」
「あ、ああ」
どこに、とはさすがに聞かない。
携帯を操作して、救急車を呼ぼうとする。
だが、繋がらなかった。
「何でだ」
警察にかけようとしても同じだった。
「円、繋がらないぞ。お前の携帯貸せ」
急いで円の携帯を貸してもらう。
だが、携帯を変えても結果は同じだ。念のため、先輩のも使ってみたが言わずもがな。
ここは、住宅地から離れているから近くの家の電話を貸してもらうのも簡単ではない。
打つ手なし。
そう思った俺達の思考を、先輩も読み取った様だった。
彼女はか細い声でこちらに語りかける。
「妨害電波……かな。ライバルに対したお金をかけた、もんだな。助けを呼ぶのは無駄だよ、私は……もう」
「そんな事言わないでよ、馬鹿桐谷。まだ分からないじゃない!」
一生懸命に止血をしている円。
念のためにと置いておいた包帯を巻いて処置を終えたが、白かった包帯はすぐに赤く染まっていった。
「俺が運ぶ。円、先輩を」
「分かったわ」
こうなったら先輩を背負って、どこかの家を見つけて押しかけるしかない。
そう思って、円に手伝ってもらいながら、先輩を背負う。
基地を出て、夜の闇の中をさ迷うようにして急ぐが、先輩が重いと言うわけじゃないが、人一人の重さは馬鹿にならない。
進むスピードの遅さに、もどかしさでいっぱいになる。
「いつかこうなるんじゃないかと……そう、思っていた。出る杭は、打たれるものだ。むしろ、君達が無事で……良かった」
出る杭って何だ。
先輩は基地にやってきた人間達に心当たりがあるのか?
「無事で良いわけないじゃないですか。弱気にならないでください!」
「そうよ、桐谷! アンタまでいなくなっちゃったら、アタシ達さすがにもうおしまいよおしまい。意地でも生き残んなさいよ!」
「ふふ、君達らしい。言葉だな……」
先輩がそういう事を言うのは分かっていた。
けれど、だからって認めるなんてできるはずがない。
仲間がいなくなって良かったなんて言える奴は、そもそもこんな変わり物ばかりのメンバーの中でやってない。俺達の中には、そんな奴いないんだから当然だろ。
先輩は、途切れそうな言葉を紡ぎながら、俺に大事な事でも打ち明ける様な声音で、続きを語りかけてくる。
そんな内容。今更だ。
二番煎じも良い所だ。
いつも聡明な桐谷先輩らしくない。
「聞いてほしい、未来」
「止めてください」
「私は、君の事が……」
「止めてくれ!」
「気に入っていたよ」
背中が重くなった。
「桐谷……?」
「先輩? 返事をしてください。嘘だ……」
嘘だ。
夢だと思いたい。
この何日で似たような事を一体何度考えたか。
でもその度に現実だと思い知らされる。
今も同じだ。
背中の重みは、どうしようもなくそこにある。
先輩が死んでしまった。




